鮮度と素材を活かした、獲れたての海の幸を。
産地直送に取り組む〈愛場商店〉
富山県の東の玄関口として、新潟県との県境に位置する朝日町。海と山に囲まれる自然豊かな富山で獲れる海産物を使用し、鮮度と素材を活かした海の幸の加工を行っている〈愛場商店〉は、2020年4月に〈朝日町燻製加工室〉で商品づくりを本格的にスタートしました。
地元の漁師さんからの魚の調達、ご自身で仕入れて捌いた魚や燻製の加工などをメインに行う亮さんは、JF泊(富山県朝日町泊漁業協同組合)の一員として、人手の足りない時は一緒に船に乗って手伝うことも。千恵子さんは、魚を捌いた後の加工、出荷発送準備をはじめ自社サイトの運営や販路開拓など、それぞれの得意分野をお互いに活かしながら、日々商品づくりを行っています。
もともと入善町出身の千恵子さん。高校卒業後に関東の短大に通うため上京し、フードコーディネーターとしての経験を積み、富山へUターンをしたのは2019年4月のことでした。
「夫とは東京で同じ会社で出会い、登山や自然が好きでアウトドアが共通の趣味だったので、いずれは一緒に地方移住をしたいと思っていた矢先に、私の父に病が見つかり、実家に戻ることになりました。そのタイミングで東京から富山に戻ることを決め、結婚。
父は私たちが地元に移住してまもなく亡くなってしまい、また東京へもどろうか……と少し悩みましたが、実家を空き家にして戻るのもちょっと違う気がして。
夫も富山を気に入ってくれていたので、この土地で自分が今までやってきた仕事が活かせるようなことができればと思い、その基盤づくりとして、2019年9月に私が朝日町の地域おこし協力隊になりました」(千恵子さん)
協力隊として活動してまもなくJF泊の組合長と知り合い、そこから朝日町と漁協が整備した燻製の加工施設を活用してくれないかとの相談があり、これまで漁協がつくっていた「ホタルイカの燻製」を受け継ぐかたちで、亮さんの主導で始めてみることに。ようやく加工施設の設備が整った2020年4月ごろから〈愛場商店〉として徐々に製造をスタートしていきました。
2024年で5年目を迎える〈愛場商店〉。千恵子さんは、「幼い頃にあたりまえに感じていた、富山のおいしい食材や風景が、いったん外に出てみることで、こんなにすばらしいものがたくさんあるんだ」と改めて実感したといいます。
「なかでも富山湾の海の幸のおいしさは格別です。あと北アルプスから流れ込むミネラル豊富な伏流水。日々の食品加工にもきれいな水は欠かせません。こんなに身近に、おいしくて美しい水があり、育まれる素材が豊富にある。富山から見える北アルプルの山並み、魅力的な山々にもすぐに行けてしまうアクセスの良さも魅力です。自然をダイレクトに感じられることは、すばらしいことである反面、冬場の厳しさなどはもちろんありますが、ぜひ四季折々の富山を感じて、その土地や空気感など実際に肌で感じてみてもらえたら、うれしいです」(千恵子さん)
二人三脚で取り組んできた加工製造。
こだわりの「ホタルイカの燻製」
まずは〈愛場商店〉の商品をより多くの方に知ってもらうため、産地直送の販売「ポケットマルシェ」からスタートしました。ホタルイカが旬を迎える時期と、コロナ禍で家飲み需要が高まり出したタイミングも重なり、想像以上の反響があり毎日のようにフル稼働で製造。特にホタルイカの沖漬けや鮮魚の昆布締め加工もスタートした2020年は、毎日が手探り状態だったといいます。2021年からは地域おこし協力隊を卒業した千恵子さんも本格的に加わり、二人三脚で新たな商品作りや販路開拓も始めました。
〈愛場商店〉が大切にしている商品づくりのモットーは、「富山の良き素材にシンプルなひと手間でさらにおいしくすること」。化学調味料や保存料は使用せず、富山湾の魚にこだわり、漁場が目の前のため、その日に獲れた素材の鮮度を落とさずに加工できるのも、朝日町だからこその特徴です。
2021年には「ホタルイカの燻製」が、バイヤーが選ぶ特産品のコンテスト『バイヤーズルーム2021』にて金賞、中小企業庁長官賞を受賞。
「多くの商品を見てきたバイヤーの方々に選んでいただけたのがとても嬉しかったですね。また産地直送サイトでの販売は、お客さんの声もダイレクトに届くので、おいしい!と、直接感想をいただけるのも日々励みになっています」と千恵子さん。
「その日のうちに素材を獲れるのかは海の状況次第なので、運よく獲れたら、何を仕込むのか、どんな加工にするのか、素材をみてみないとわからない部分もあります。前シーズンはホタルイカが不漁で、新月は狙い目なので、原料確保のためチャンス日を見計らってホタルイカ漁に出る毎日でした。自分たちでコントロールできるものではないので、大変さはありますが、海の幸のありがたみを日々感じてるからこそ、素材の良さを存分に活かしたいと思っています」(亮さん)
ホタルイカの燻製をはじめ、毎回試行錯誤しながら、素材に合わせた加工や製造方法を見出しながら、商品づくりに力を入れてきました。基本的に加工の段階で、鮮度が落ちてしまうような過度な手間は省き、最低限必要な工程を心がけているそう。最終的な商品の仕上げやアレンジをお客さん自身でも楽しめるのが〈愛場商店〉の手がける商品の魅力でもあります。
〈愛場商店〉のおすすめはコレ!
よりおいしく味わうポイントは?
フードコーディネーターの経験を活かし、より商品を味わうためのアレンジや食べ方などの提案も行っている千恵子さんに、これからの季節にぴったりな逸品と、よりおいしく食べるためのポイントを教えてもらいました。
① しっとりとした食感と熟成感!「フクラギの炙り生ハム」
POINT
ブリの出世魚として知られる「フクラギ」。“福が来る魚”とも書く縁起魚として新年や節分などにもおすすめです。ブリより脂が控えめであっさり。ハーブ塩で程よく水分を抜き、熟成させることで旨みが増した生ハムのような食感。自家製の燻製オリーブオイルの風味がアクセントに。スライスすればお酒のアテに、ちらし寿司やサラダなどにも活用できます。
② アレンジが楽しい洋風干物「サゴシの香草干し」
POINT
いずれサワラになる出世魚であり、縁起魚として知られる「サゴシ」。フライパンでハーブやニンニクと合わせて焼き上げたり、粉をまぶしてバターで焼いてムニエルに、白ワインで仕上げてアクアパッツア風に……など、洋風のメニューとも相性抜群です。旨みが凝縮してドリップ(干物に必要な最低限の成分)も出にくいので、アレンジや調理もしやすいのでおすすめ。今後は、子どもや若い世代の方にも、親しみやすい洋風干物にもチャレンジしていきたいです。
③ 自家製魚醤仕込み!「肝付スルメイカの一夜干し」
POINT
旬のスルメイカを肝ごとまるごと干物に仕上げた逸品。捌いた後、新鮮な鯖の頭や内臓などを発酵させてつくった自家製魚醤につけ、浅干しの一夜干しに仕上げました。魚焼きグリルなどで肝ごと焼き、お酒のお供にも。カットしてニンニクとオリーブオイルでアヒージョ風に焼き上げ、バケットにつけて食べるのもおすすめです。
〈愛場商店〉では、地元でその時期に獲れる旬の素材を使用し、シンプルな包装でゴミも出さないよう心がけ、つくった分は全て売り切ることで、食品ロスが出ないように心がけています。
「ホタルイカ燻製は完全受注生産でロスを全く出さないように調整し、製造日にすべて発送するようにしています。他の商品はマイナス60度の低温冷凍で保管し、店舗販売は基本的にはせず、お客さんには一番鮮度の良いものを直送でお届けすることを優先するため、過度な生産をしないためロスもありません。
海の幸の加工を始めた4年前と比べると、海水温の上昇などにより、富山湾で獲れる魚種や時期も変化してきています。〈愛場商店〉としても、漁協が取り組んでいる海の環境づくりにも積極的に参加したり、今獲れる素材を無駄なく全部使い、消費することも、より大切に考えていきたいです」(千恵子さん)
富山湾で獲れる海産物を使って、鮮度と素材を感じる商品づくりに日々取り組む〈愛場商店〉。朝日町の食や自然に魅了された愛場さんご夫婦が二人三脚でつくる、産地直送のこだわりの商品をぜひ取り入れてみては。きっと日々の食卓を彩る、おいしい逸品に出合えるはずです。
credit text:『doors TOYAMA』編集部