ひとりでつくり上げていくよりも
だれかと一緒につくるほうが楽しい
nifuniさんの本業は漫画家。そもそもなぜ、このような場をつくろうと考えたのでしょうか。
「コロナ禍に人と会わなくなって、ひたすら画面に向かって黙々と仕事をしているとき、働き方のスタイルがどんどん変化していく様子を見ながら、よく考えてみれば私の仕事って、会社に出勤するわけでもないから家でもどこでもできるし、人と会いたいなら自分が行くんじゃなくてきてもらうこともできる。
カフェみたいなオープンな場所があればいろんな人が集まれるし、私自身も仕事部屋にこもりっきりになることもなくなるから、いいことがいっぱいあるんじゃないかなと思って」
そんなふうに思い始めていたとき、現在の店舗兼住居となる物件との出合いがありました。当時はすでに閉業していましたが、1階部分はもともと夫婦で経営されていたパン屋さん。自分たちの住まいや暮らしのビジョンも見えたことから購入に至り、リノベーションをしてお店をひらこうと考えます。
「自分ひとりで黙々と何かをつくり上げるというよりも、人とのコミュニケーションのなかでつくるということに興味があるんです。だれかが喜んでいる姿を見るのって、自分にとってもすごくモチベーションになるんですよね。前職のジュエリーの仕事がオーダーメイドをメインにしていたこともあり、そういう部分を大事にしていきたいという気持ちが芽生えたのかもしれません」
ブックカフェ〈松キ〉では古書やZINE、nifuniさんの作品を中心に、富山や北陸のつくり手の日用品や雑貨、食品などを扱い、カフェスペースではコーヒーや自家製のドリンクをはじめ、トーストやデザートなどの軽食も楽しめます。
「夫婦ふたりで小さくやっているお店なのですが、この辺りは本屋さんがないので本を読める場所ができたと喜んでいただくことが増えました。書籍のセレクトは夫が中心に行っています。私たちの本棚を見るぐらいの感覚で、たまたまでも好みの本に出合ってもらえればうれしいです」
客層は比較的若い人が多いものの幅広く、最近では高校生を中心とした学生も立ち寄ってくれるようになったのだとか。また、漫画『左ききのエレン』の熱狂的なファンという方で、わざわざ県外からやってきた人もいたそうです。読者と会える機会はそう多くないこともあり、お店をつくったことで生まれたうれしい出会いでもあったと話します。
「Webでの連載の場合、閲覧数だけでは読者さんの存在を実感しにくいところがあったのですが、お客さんから『読んでます』とか『このシーンが好き』みたいな話を直接聞けたりすると、ただただ孤独に描いていただけじゃなかったんだなとか、ちゃんと届いて受け取ってくれた人がいたんだ、しかも地元の富山にもいたんだっていうのが感じられて、それだけでもお店をやって良かったなと思います」