ポップなイラストや漫画で伝える
伝統工芸だけではない高岡の魅力
大学時代を過ごした高岡市に戻ってきたのは3年前。卒業後は富山県を離れ、名古屋にあるオーダーメイドジュエリーの会社に長く務めていました。その後、結婚や漫画家への転身を経て、あらためて富山で暮らしていくことを決めました。そこには大学時代を思い出して懐かしくなる気持ちと、離れて戻ってきたことで感じる高岡の新たな魅力がありました。
「今でもそうなんですけど、初めて富山にきたときに感動したのは、まちを歩いていてこんなにも山がきれいに見えるんだっていうことですかね。山はもちろん海もあるし、季節が巡るたびに移り変わる田んぼの風景とか、そういう自然が身近にある環境は、創作活動するうえでも影響を受けていると思いますし、感性を刺激されるんだと思います。あとはやっぱりごはんがおいしいですね(笑)」
グラフィックの世界とはまた違う、工芸品やジュエリーのような画面越しでは伝わらない美しさを宿したものに惹かれるというnifuniさん。デジタルでなんでも受け取れる時代だからこそ、同じ空間で目の前にあるからこそ感じられるフィジカルなものの価値や魅力に対する憧れがあるといいます。
「進路を決めるとき、東京の大学も候補に入れていたんですけど、最終的には余裕を持ってのびのびと制作に集中できる環境がある地元の大学に決めて良かったと思っています。それまでは絵のことしか考えていませんでしたが、金属工芸を専攻したことでまったく知らない工芸の世界に足を踏み入れることができましたし、そこからジュエリーデザイナーという仕事につながったりもしたので」
独立するタイミングで決めた「nifuni」というペンネームは、仏教用語の「而二不二(ににふに)」という言葉に由来しているのだそうです。意味としては、物事はひとつの面だけではないというもので、自身の仕事や働き方とも密接に関係していて、そこには特別な思いや抱負がありました。
「本業は漫画家ですが、イラストレーターでもあり、ジュエリーデザイナーでもあり、いずれも私なんですよね。いろんなことをやってみたいし、全部含めて自分だっていうことを認めたいと思ったんです。これからも枠にとらわれずに自由に表現することをチャレンジし続けられる自分でいたいという思いがあります」
まちなかを歩いていると、お店の壁などに描かれた『左ききのエレン』のキャラクターにいくつか出会いました。これらは昨年開催された個展『nifuni展 -左ききのエレンとアートワークス-』の関連イベントとして行われたnifuniさんによるライブペイント作品。
最近では、まちにちなんだオリジナルキャラクターや選挙の広報イメージビジュアル制作など、富山に関わる仕事も増えています。
高岡といえば伝統工芸、だけではない魅力をポップなキャラクターやビジュアルを通じて発信すること。それは漫画家・イラストレーターのnifuniさんならではの表現でもあるのです。
credit text:井上春香 photo:朝岡英輔