2024年1月1日に発生した能登半島地震から約3か月、富山県で甚大な被害を受けた被災地や、隣接の石川県の復興を願う支援の輪が広がっています。
1日でも早い復興を願い、震災を経験したいま、自分たちにできることを懸命に取り組む、富山県内の宿泊施設、酒蔵、ワイナリー、防災にまつわる情報を届ける企業など、未来を見据えた支援、活動するに至ったその思いを紹介します。
※掲載情報は2024年3月時点の情報です。最新情報などは公式ホームページをご確認ください。
未来につなげる支援のかたち。
氷見の海辺の宿〈HOUSEHOLD〉
2024年1月1日の能登半島地震で、震度5強の揺れに襲われた富山県の北西部に位置する氷見市。氷見で海辺の宿〈HOUSEHOLD(ハウスホールド)〉をご夫婦で営む、笹倉慎也さん、奈津美さん。
「幸い家族やスタッフ、ゲストに被害はなく、建物もほぼ無事でした。しかしいざ現実と向き合うと、ニュースやSNSで地震の惨状が流れてきて、能登で暮らす人々の顔が次々と浮かび、いてもたってもいられないほどの不安になりました」と、地震発生時の状況を振り返ります。
すぐに氷見市で津波警報が出たので避難所の小学校で一夜を家族で過ごしたといいます。能登半島地震の発生後の宿泊予約はほとんどがキャンセルに。
そんななか、長野県諏訪市で古材と古道具を扱うリサイクルショップを営む〈リビルディングセンタージャパン(以下、リビセン)〉の東野華南子さんや、クリエイティブディレクターとして活躍する氷見出身の谷本好さんをはじめ、日頃からお世話になっている知人からの「自分たちに何かできることはないか」という連絡はとても心強かったといいます。
〈HOUSEHOLD〉の近辺でも建物の倒壊や損壊があり、道路はあちこちで通行止めとなり、断水が続くなか、2歳の息子さんや県外から移住してきたスタッフを守りつつ、自分たちの宿が無事だったからこそできることはないかと考えるように。
1月4日にはリビセンの華南子さんや谷本さんから、被災地に届けるための支援物資を集め始めたと連絡があり、緊急で支援物資が必要な避難所のなるべく近いところまで運んでおくことが有効であると判断し、〈HOUSEHOLD〉がその支援物資の中継地点となり、荷捌き場として連携することで、貢献できないかと考えました。
全国からリビセンに集まった支援物資は、当初の想定をはるかに超えて2トントラック数台分に。その物資をどのように届けるかについて思案していたところ、2023年に〈HOUSEHOLD〉で個展を開いた、石川を拠点に活動するアーティストの饅頭VERY MUCHさんが、避難所に物資を届ける支援活動「能登とととプロジェクト」を行っていることを知り、連携して取り組むことに。
氷見市は能登半島の東側付け根の部分に位置し、「能登とととプロジェクト」の支援物資拠点である石川県かほく市は、西側の付け根部分にあたります。
高速道路で金沢市から能登方面に向かう通り道でもあることから、円滑に支援物資を届けるため、饅頭さんが届けている物流にのせようと判断し、調整を行いました。
「能登とととプロジェクト」の事務局では支援物資の収集配送に加えて情報班が立ち上がり、金沢在住/帰省中の有志がInstagramやXに上がってくる支援希望の声や現地の道路情報などを吸い上げ、電話でのヒアリングを行い、避難所でのニーズを抽出していました。笹倉さんは活動が円滑に進むよう、事務局に移動し、運営のサポートを行いました。
「能登半島は海に囲まれていて陸の1方向からしか支援に行けません。被災地への数少ない主要道路さえも損壊し、渋滞が発生したり、一般車両の道路の通行止めになるなど、数時間おきに変化する緊迫感ある状況のなかで、支援ニーズの変化などにも対応しながら玉石混交の情報から正確な情報を見極め、判断力が必要になります」(笹倉さん)
「この活動では饅頭さんをはじめ、職業や立場も違う人たちが集まり、被災された方々の切実で悲痛な声を直接受け取っていました。それぞれ信念を持ち、柔軟に対応し、クリエイティブやユーモアも忘れず、相手が置かれている状況を想像して手を差し伸べる。そのような姿勢が大切だと実感しました」(笹倉さん)
今後〈HOUSEHOLD〉では、毎年開催している「やわい屋の行商」を作家さんの協力を得てチャリティイベントとして開催したり、「もしもに備える防災ワークショップ」などの防災意識を高めて実践を促す企画も計画しているといいます。
また、氷見や能登の復興に向けた草の根活動として〈HOUSEHOLD〉の喫茶では、「Pay it forward(ペイフォワード)」(お店を利用したお客さんが次に来店する誰かのために代金を先払いする仕組み)という、つながりが見えやすい寄付のかたちを実践。
「“HOUSEHOLD”は家庭と訳しますが、一緒に食事をし、日々の暮らしをともに支えあう人の集まりという意味も。まちの営みは、たくさんある家庭の営みの集合体でもあり、日々の暮らしを支えあう“まちはひとつの大きな家庭”とも解釈できます」(笹倉さん)
「訪れた土地で料理をすることで、まちの豊かさを一番に味わえる。氷見を訪れた人たちが、豊かな自然や食材をより身近に感じ、料理を通して日常の楽しさを共有し、その魅力を届けたい」という思いから“勝手口からの旅”というコンセプトに。
「海と里山が近い氷見では、食材が食卓に並ぶまでの過程をよく目にします。例えば魚。漁港の漁師さんは獲れたばかりの魚を市場に運び、(せり人や仲卸業者など)買い手によって取引され、魚屋に並びます。それを買って、料理をつくる。こうして食卓に並ぶのは、さまざまな人々の日々の営みがあるからこそだと感じています」(笹倉さん)
「もちろん飲食店でプロがつくる料理を味わうのも、旅先ならではの贅沢。だけど、魚や野菜を包丁で切る音や手の感覚、食材に火を通した時の香りや色味、旬の食材の新鮮さをより強く感じるからこそ、その地域らしさや郷土の味をより深く感じられると思います。
これは台所に立ち、料理をした人にだけわかる歓びです。料理がうまいかは関係なく、その楽しさに出合える、そういう場所であり続けたいです」(笹倉さん)
営業時間:cafe(喫茶) 13:00〜18:00(17:00L.O.)
※1階のcafeは宿泊者以外の方も利用可能
日曜のみ朝営業あり/8:30〜10:00(9:30L.O.)
定休日:木・金曜
Web:HOUSEHOLD
Instagram:@householdbldg