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短編映画『ゆ』の監督、平井敦士さん
lifestyle, well-being

富山県の銭湯が舞台の短編映画『ゆ』
平井敦士監督が語る、銭湯と映画

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あらゆる人々の日常や人生が交差する
銭湯を舞台に繰り広げられる物語

フランス・パリを拠点に活動する富山市出身の映画監督、平井敦士さんによる短編映画『ゆ』。2023年のカンヌ国際映画祭「監督週間」に正式招待されたほか、国内外のさまざまな映画祭ではグランプリを含め、数々の賞を受賞しています。

大晦日の夜、銭湯を訪れたひとりの男性の物語。21分という短い作品ながらも、銭湯を訪れる人々とそれぞれの日常が交差する様子が繊細に描かれている本作。セリフが少ないぶん、人々の表情の変化や動作、ひとつひとつの音の表現が印象的で、映像に引き込まれるとともに、シーンの中に潜っていくような感覚があります。

「ゆ」の文字が描かれた暖簾がかかった〈川城鉱泉〉入口
ロケ地となった富山県魚津市〈川城鉱泉〉の暖簾をくぐる。

根っからの銭湯好きで、かねてから銭湯をテーマにした映画を撮りたいと考えていた平井さん。故郷の銭湯を舞台にした作品『ゆ』は、どのようにして生まれたのでしょうか。

「銭湯って、いろんな人の日常や人生が詰まっている場所で、あらゆる世代の人が訪れるという意味では、日本という社会の縮図でもある気がしています。

たとえば、僕みたいに長く故郷を離れて久しぶりに帰ってきた人もいれば、大切な人との別れを経験したばかりの人もいるかもしれないし、子どもが生まれて喜びに満ちている人もいるかもしれない。そういうのってすごく映画的だし、いつかここで映画を撮ってみたいと思ったのがきっかけです」

風呂椅子とケロリン桶の置かれた洗い場
ほとんど見かけなくなった緑色の風呂椅子。黄色いケロリン桶を最初につくったのは富山県の会社。

映画製作に向けて現実的になったのは、以前の職場の人と銭湯で偶然再会したときに聞いた、ご家族を亡くされたというエピソード。一緒にお湯に浸かりながらぽつり、ぽつりと話す様子や、帰るときの後ろ姿を見て「映画を撮ろう」と心に決めたそうです。

「僕の映画は、自分のなかに溜まっていたもののアウトプットのかたちでもあるので、富山で撮ることに意味があると思っているんです。ここは自分が生まれ育った場所であり、この土地に備わっている文化がアイデンティティにもなっているから。方言やイントネーションもそうですし、富山の人の空気感を意識していて、地元らしさをどのように表現するかがとても重要なことでした」

映画『ゆ』の1シーン。男性が髪を洗っている
『ゆ』より。©︎MLD FILMS
映画『ゆ』の別のシーン。年配の女性が脱衣所でな涙を流している

主演は東京在住の俳優、吉澤宙彦さん。しかし、そのほかの出演者はほとんど俳優ではない富山県の人々を起用し、平井さんの家族や友人も登場。また、地元の人々に長く愛されてきたものの、数年前に廃業し取り壊しが決定していた〈草津鉱泉〉での撮影では、実際に番台を務められていた方に番台役として出演を依頼しました。

〈川城鉱泉〉での撮影の様子
撮影は全編オール富山ロケ、出演者には地元富山県の家族や友人なども登場。こちらは〈川城鉱泉〉での撮影の様子。(写真提供:平井敦士監督)
〈草津鉱泉〉での撮影で指示を出す平井監督
銭湯内のシーンは〈草津鉱泉〉で撮影。(写真提供:平井敦士監督)

「ロケ地は〈川城鉱泉〉さんと〈草津鉱泉〉さんの2か所で、浴場の掃除を手伝わせてもらったり、お湯を沸かす釜場を見せてもらったりもしました。それまではお客さんとして利用するだけだったのが、銭湯の裏側を見せてもらったことで、こんなにたいへんな作業があるのに、ふらっときてワンコインでお風呂に入らせてもらっているなんて贅沢なことだな、ありがたいなと強く思いました」

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