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県民の胃袋を満たす“四角い”お好み焼き。
行列店〈ぼてやん〉のおいしさに迫る!

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〈ぼてやん多奈加〉は
もともと食堂だった!

富山駅南口の商業施設〈CiC(シック)〉の地下1階に、連日行列をつくる人気お好み焼き店があるのをご存知でしょうか。〈ぼてやん多奈加〉の前には昼夜問わず、地元の人も観光客も関係なく、多くの人が大きくて分厚くて、“四角い”お好み焼きを求めて列をなしています。

たっぷりの自家製マヨネーズとソースがトロトロの生地と絡み合うお好み焼きは、一度食べると忘れられないクセになる味わい。そして、そのインパクトのある見た目も多くのファンを惹きつける理由です。

〈ぼてやん多奈加〉の入口
富山駅南口〈CiC〉の地下1階にある〈ぼてやん多奈加〉。市内にはテイクアウト専門の上飯野店も。

1980年、現・店主の田中博之さんのお父さんである先代が、脱サラして〈ぼてやん多奈加〉を創業。店名の「多奈加」は「田中」の当て字で、お店の商売繁盛を願うポジティブな意味を込めてつけられました。

創業当初は、鉄板焼きをメインとした食堂としてラーメンやカレーライスなども提供していましたが、なかでも多くの注文が入ったのが「お好み焼き」。次第にお好み焼きをメインとしたお店へと移り変わっていきました。

〈ぼてやん多奈加〉2代目店主・田中博之さん
父親からお店を引き継いだ2代目店主・田中博之さん。

田中さんは幼い頃からお好み焼きを焼く父の姿を見て育ち、生活の中心にお店があったそうです。そのためか、初めて鉄板の前に立ったときには、自然と四角いお好み焼きを焼くことができたと言います。

手取り足取りの指導というよりは、背中で語る先代のもと、一緒にお好み焼きを焼く日々が始まりました。

鉄板に並んだたくさんのお好み焼き、そのうち6個にマヨネーズをかけ仕上げる田中さん
テイクアウトの注文も含めて同時に十数個のお好み焼きを焼き上げる。

「気づいたときには2代目でした」と話す田中さんですが、最終的にお店を継ぐ決意をかためたのは、ぼてやんの味を「おいしい!」といつも楽しみにしてくれているお客さんたちの存在でした。「食べてくれるお客さんがいる限り、お店を続けていかなきゃもったいないと思った」と当時の気持ちを振り返ります。

お客さんへの思いやりから生まれた
四角いお好み焼き

開店当初は丸い形をしていたお好み焼きも、田中さんが物心つくころにはすでに四角い形をしていたそう。四角く焼く理由は3つ。「厚みを出したいから」「均等に火を通したいから」「シェアしやすく、食べやすいから」。

四角い一口サイズに切り分けている
カットしてから提供するのが〈ぼてやん多奈加〉のスタイル。

「常連さんの多くは、お好み焼きと焼きそばをひとつずつ頼んで半分ずつ食べるんです。そのときに、この四角い形だとシェアしやすいんですよ。丸い形だと端っこが薄くなって、ケンカになっちゃいますからね」と田中さんは笑います。

おいしいものをお腹いっぱい、平等に味わってほしい。この心遣いこそが〈ぼてやん多奈加〉が長年愛され続ける理由なのでしょう。

18歳から約25年間にわたりお好み焼きを焼いてきた田中さんは、同時に10個以上を鉄板で焼き上げることも難なくこなします。リズミカルに焼き上げ、力強くカットする手さばきで、次々とお好み焼きを完成させていきます。先代から受け継いだのは「愛情を込めてつくる」という心構え。そのマインドを胸に秘めて、店頭に立ち続けています。

焼き時間30分以上
外はフワっと、中はトロトロの食感

〈ぼてやん多奈加〉のお好み焼きのこだわりは、四角い形だけではありません。生地はシンプルな材料にとどめ、「お好み焼きのおいしさを決めるのは、とにかく生地の水分量」だと言います。キャベツは、信頼できる八百屋から毎日新鮮なものを仕入れ、その日手に入ったキャベツの状態を見ながら生地の水分量を調整します。また、注文の入ったトッピングによっても水分量を微調整していきます。

そして、生地を丸く伸ばし片面だけ焼けた状態で端っこを内側に畳み込み、四角くしていきます。折り込んだ分厚みのある生地にじっくりと火入れをするため、焼き上がりまでは30分から40分。

生地の端を内側に畳み込んでいく様子
お好み焼きは注文を受けてから焼き始め、じっくりと火を入れていく。

焼き上がったお好み焼きに塗っていくのは、ケチャップ、ブレンドしたソース、からし、そして自家製のマヨネーズ。厚みのあるお好み焼きには、ソースを二度、三度と生地に染み込ませるように重ね塗りし、仕上げていきます。酸味を抑え、甘みを引き立てたマヨネーズをたっぷりと乗せ、からしは風味を添える程度に。

自家製マヨネーズをお好み焼きにかける様子
自家製マヨネーズは甘めの味つけ。一方ソースはバランスを考えスパイシーなものを使用している。

鉄板の上でじっくり焼き上げるお好み焼きは、外はフワっと、中はトロトロの食感。見た目のインパクトに反してスルッと食べられ、自家製マヨネーズとソースのバランスが絶妙に絡み合い、“待つ甲斐あり”の一品です。

完成したお好み焼き
焼き上がりの食感はお好み焼きとは思えないほどフワフワ。

トッピングは、女性にはお餅やチーズが人気で、田中さん自身は納豆がおすすめ。もともとしつこくない味のお好み焼きですが、納豆をトッピングすることで、さらにあっさりと楽しめるのだとか。焼き方に強いこだわりがありながら、食べ方に決まりや厳しいルールがない、親しみやすさも魅力です。

鉄板で焼きそばが仕上げられている
お好み焼きのソースが辛口なぶん、焼きそばのソースは甘口。

人気店の伝統の味を守り
多くの人々に提供する

「おやじの代のときに、テレビ番組で何度か紹介されたことをきっかけに、たくさんの人が来てくれるようになったと聞いています」と話す田中さん。その人気は現在も衰えることなく、県内外はもちろん、海外からのお客さんも訪れるといいます。

外国の人は、「四角い」ということに珍しさを感じないものの、お好み焼きや太麺のもちもち焼きそばを味わって「おいしい! 毎日でも来たい」と感激する声も。富山滞在中にリピートする旅行者も少なくありません。

そんな行列が絶えない人気店には、テイクアウトの注文の電話も頻繁にかかってきます。「どうしても焼く時間がかかってしまい待っていただくことになってしまうので、できあがりの時間に合わせて取りにきていただけるよう、テイクアウトにも対応しています」と田中さん。

テイクアウト用に包装されたお好み焼き
なかには、テイクアウトして冷たくなったお好み焼きを好むツウなお客さんもいるそう。

お父さんがつくりあげた四角いお好み焼きですが、「おやじの味を守るだけ」とどこかうれしそうに話す田中さん。富山湾が誇る新鮮な海鮮もすばらしいですが、富山で生まれた〈ぼてやん多奈加〉の名物お好み焼きを体験してみるのもおすすめです。

Information
ぼてやん多奈加
address:富山県富山市新富町1-2-3 富山ステーションフロントCiC B1F
tel:076-442-2152
access:富山駅から徒歩約3分
営業時間:11:00~15:00(14:00L.O.)、17:00〜21:00(20:00L.O.) ※土・日曜、祝日11:00〜21:00(20:00L.O.)
定休日:不定休
Instagram:@bote_yan

credit text:岩井なな photo:利波由紀子

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