山のイラスト
発光しているホタルイカ
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ホタルイカはなぜ光る? なぜ富山県の名産?
知られざる生態を解き明かす
〈ほたるいかミュージアム〉に行こう!

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富山に来たら必ず食べてほしい「ホタルイカ」。シロエビやブリとともに「富山県のさかな」に選定されています。

春限定のおいしさであり、旬の時期には海面で光り、幻想的な光景が見られるホタルイカですが、その生態はいまだ謎だらけ。気になるホタルイカの生態、なぜ富山がホタルイカの産地として知られているのか。〈ほたるいかミュージアム〉の小林昌樹館長にお話を伺いました。

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世界で唯一生きたホタルイカに会える
〈ほたるいかミュージアム〉

〈ほたるいかミュージアム〉の外観
〈ほたるいかミュージアム〉があるのは、富山県滑川市の〈道の駅 ウェーブパークなめりかわ〉内。(写真提供:ほたるいかミュージアム)

およそ30年前の1996年にホタルイカが「富山県のさかな」に指定され、その2年後の1998年にオープンした〈ほたるいかミュージアム〉。全国屈指のホタルイカ漁獲量を誇る滑川漁港の目と鼻の先で営業しています。ホタルイカの生態や生息する富山湾の神秘について、大人も子どもも体験しながら楽しく学べる施設です。

「富山のホタルイカは大粒でおいしいですよ」と笑顔で教えてくれたのは、〈ほたるいかミュージアム〉館長の小林昌樹さん。幼少期から滑川市で過ごし、ホタルイカの生態や富山湾についても知り尽くしています。

〈ほたるいかミュージアム〉の館内
〈ほたるいかミュージアム〉では、ホタルイカだけでなく、富山湾や富山湾の生き物の生態について学ぶことができる。(写真提供:公社 とやま観光推進機構)

全国に広く流通しているホタルイカですが、生きたホタルイカを「展示」しており、実際に触れることができるのは、世界で唯一〈ほたるいかミュージアム〉だけです。

「県外の水族館の方々が『うちでもホタルイカを展示したい』とよく視察にいらっしゃいますが、『やっぱり無理だ』と最終的にはみなさん断念されます。それはなぜかというと、ホタルイカは飼育・養殖できないうえに、生きた状態で入手してもすぐに死んでしまう繊細な生き物だから。

富山湾東部に位置する滑川(なめりかわ)漁港は、ホタルイカの代表的な水揚げ地。〈ほたるいかミュージアム〉はその漁場の目の前に位置し、ホタルイカが生息する富山湾の海洋深層水を直接取水しています。そのため、このミュージアムでしか見られない貴重な展示方法が実現しているんです。最盛期を迎える3月20日から5月末には生きたホタルイカを展示しています」(小林さん)

〈ライブシアター〉をたくさんの子どもが見学している
ミュージアムの目玉、半円型の水槽と上映スクリーンからなる観客一体型の〈ライブシアター〉。(写真提供:ほたるいかミュージアム)
タッチプール〈深海不思議の泉〉で生きたほたるいかを手にしている子どもたち
タッチプール〈深海不思議の泉〉では、滑川沖の水深333メートルから取水される富山湾の深層水を入れ、深海の珍しい生きものを飼育している。(写真提供:ほたるいかミュージアム)

〈ほたるいかミュージアム〉では、見るだけでなく触れて、食べて、学べる工夫が凝らされています。

小林さんが「ミュージアムの2大看板!」と太鼓判を押すのが、観客一体型のライブシアターでホタルイカの発光を間近で観察できる〈ライブシアター〉と、平均水温5度の海洋深層水で暮らす生き物と触れ合えるタッチプール〈深海不思議の泉〉です。

手のひらの中で、微かに発光しているほたるいか
生きたホタルイカに触れられるのは例年3月20日から5月下旬まで。(写真提供:ほたるいかミュージアム)

そのほかにも、ホタルイカの発光のメカニズムや生態を学べる「展示ホール」、機器を装着してホタルイカの目線となって深海体験ができるVR「DIVE」など、オフシーズンにも楽しめるコンテンツが充実しています。

深海体験ができるVR「DIVE」
ホタルイカはなぜ接岸するのか、なぜ光るかなど、ミッションをクリアしていくことでホタルイカの生態を学ぶことができる。(写真提供:ほたるいかミュージアム)

さらに、ミュージアムで味わえるホタルイカグルメも外せない名物です。館内で営業する〈パノラマレストラン光彩〉では、ホタルイカのしゃぶしゃぶ、天丼、刺し身など、鮮度抜群の料理を一年中楽しむことができます。一年を通して新鮮なホタルイカを味わえるのは、最新の瞬間・急速冷凍技術を駆使して獲れたての鮮度が保たれているからです。

パスタやピザ、天ぷらなど〈パノラマレストラン光彩〉で提供されるホタルイカ料理
ホタルイカのピザやパスタまで、ホタルイカの料理なら何でもござれ。(写真提供:ほたるいかミュージアム)

また、隣接する〈みちcafé wave〉でも、〈ほたるいかバーガー〉や〈ほたるいかフライ〉など、ホタルイカグルメを楽しむことができます。

「〈ほたるいかミュージアム〉は、さっきまで触っていたホタルイカを館内の2階で食べられる、ちょっとシュールな施設でもあります(笑)。ここは、もともと富山のおいしいホタルイカを食べてほしくてオープンした施設ですから、遠慮なく食べてください!」(小林さん)

そもそもなぜ光る?
ホタルイカの神秘的な生態

発光している2匹のホタルイカ
ホタルイカは多くの謎に包まれた生き物。ホタルイカの発光は、明るく光るのに熱を持たない「冷光」と呼ばれる。(写真提供:公社 とやま観光推進機構)

富山湾特有の地形が生む国の特別天然記念物

1953年の統計開始以来、2024年に富山県産ホタルイカは過去最高の漁獲量を記録しました。では、なぜ富山県ではホタルイカがよく獲れるのでしょうか。小林さんに質問してみると、「富山湾の形がホタルイカの産卵に適しているから」とのこと。「天然のいけす」と呼ばれる富山湾の独特な海底地形に、ホタルイカが大量に水揚げされる理由がありました。

日本海に生息する魚介類800種類のうち500種類が獲れるといわれる富山湾は、岸近くから急激に深くなり、水深約1000メートルの海底へと続いています。そこに、標高3000メートル級の立山連峰からミネラルたっぷりの雪解け水が流れ込むことで、海の生き物にとって理想的な環境が形成されています。

海岸に漂着して発光しているたくさんのホタルイカ
富山県の春の風物詩「ホタルイカの身投げ」。産卵時期の3月~5月にかけてみることができる。(写真提供:公社 とやま観光推進機構)

この富山湾特有の急峻な地形が生みだす波によって、通常であれば海岸に漂着しないホタルイカのメスが産卵時期に打ち上げられます。このとき、青白い光を放ちながら打ち上げられる様子は「ホタルイカの身投げ」と呼ばれ、富山の春の風物詩となっています。

漁船上でホタルイカがかかった定置網を引き揚げている
ホタルイカが定置網で水揚げされる様子。(写真提供:公社 とやま観光推進機構)

ホタルイカ漁は、漁獲量で日本一の兵庫県や、同じ日本海側に位置する福井県、島根県でも盛んですが、富山県だけが定置網漁業による水揚げを行っています。定置網からていねいに引き上げられる富山湾のホタルイカは、漁場から港までの距離が2キロメートルと非常に近いため、活きの良い状態で水揚げされ、高い鮮度を保ったまま提供されているのです。

ホタルイカはなぜ光る?

スーパーなどで売られている姿からは想像できないくらい、美しく発光するホタルイカ。では、なぜホタルイカは発光するのでしょうか。

ホタルイカは、いまだその生態に解明されていない部分が多い神秘的な生き物です。命名されたのは1905年。当時、東京大学教授であった「ホタル」の研究者・渡瀬庄三郎博士によってその名がつけられました。そのため、ホタルイカは博士の名前にちなみ、「Watacenia sintillans(ワタセニア・シンティランス)」という学名を持っています。

「ホタルイカの光は、ホタルよりも10倍明るいという調査データがあります。この発光はおそらく外敵から自分の身を守るための威嚇行動だと考えられています。相手を驚かせ、その隙に外敵から逃げているのではないでしょうか。

ホタルイカは飼育や養殖ができない生き物であり、その生態はまだまだ謎に包まれていますが、触れると発光する現象も、浜辺に打ち上げられて光る現象も、同じ原理によるものだろうといわれています」(小林さん)

必見! ホタルイカイベントで
盛り上がる春の富山

富山湾に注ぐ常願寺川河口左岸から魚津港までの約15キロメートルにわたる海岸線、満潮時の沖合い1260メートルの海域は、「ホタルイカの群雄海面」として、国の特別天然記念物に指定されています。

そして、4月からGWまでの期間は、富山観光の目玉となる「ほたるいか海上観光」が開催され、観光船から幻想的なホタルイカ漁の様子を間近で見ることができます。

この「ほたるいか海上観光」は、〈ほたるいかミュージアム〉が開業するよりもはるか昔から続く恒例イベントです。天候や波の状況によっては出航できない場合もあり、幻想的な光景を見られるかどうかは運次第という要素も相まって、事前予約が必須の人気ツアーとなっています。

漁船上でのホタルイカの水揚げの様子
実際に水揚げされている様子を、漁船に接近して観光船からから見ることができる。(写真提供:公社 とやま観光推進機構)

そのほかにも、〈ほたるいかミュージアム〉では毎年4月第4土曜日に〈春のホタルイカ祭り in 滑川〉が開催され、大食いコンテストやホタルイカの目玉飛ばしコンテスト、ホタルイカすくいなど、多彩な企画で来場者を楽しませてくれます。

「飛ばしたホタルイカの目玉を探すのが大変なんですけどね(笑)。この日のために全国から訪れる方もいるくらい人気の企画です。ホタルイカ料理のできたてのおいしさをお楽しみください」と小林さん。

常識を覆す、富山の
ホタルイカを食べに行こう!

今や全国で食べられるホタルイカですが、富山湾で水揚げされるホタルイカは格別においしい! その理由は、富山湾特有の海底地形と、富山県でのみ行われている定置網漁によって、産卵期を迎えたメスを新鮮な状態で水揚げできるからです。ぜひ普段食べているホタルイカと、富山湾のホタルイカを見比べてみてください。ふっくらと大きく育った身にきっと驚くはずです。

そして、世界で唯一生きたホタルイカを展示する〈ほたるいかミュージアム〉に行けば、神秘的なホタルイカの生態を学ぶだけでなく、鮮度抜群のホタルイカグルメも堪能できます。

ホタルイカ展示は3月中旬から5月末までの期間限定。〈ほたるいか海上観光〉や〈春のホタルイカ祭り in 滑川〉も同時開催されているので、ぜひ合わせて足を運んでみてください。

Information
ほたるいかミュージアム
address:富山県滑川市中川原410
tel:076-476-9300
営業時間:9:00~17:00 ※入館は閉館時間の30分前まで
休館日:6月1日~3月中旬の火曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始、1月は最終月曜から3日間
料金:3月20日〜5月31日大人820円、子ども410円 ※6月1日~翌年3月中旬大人620円、子ども310円
Web:ほたるいかミュージアム

credit text:松永春香

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