
切り取り方で富山を発信する
『じおらま富山。』を観ていると、特に観光地ばかりを撮影しているわけでもないようです。撮影場所はどのようにして選んでいるのでしょうか。一番重要なのは、実は「高さ」だとか。
「とにかく高ければ高いほどいい。できれば斜め45度で見下ろして、空を入れたくないんです。空がないほうがジオラマっぽく見える。でも富山では“高さ”が足りません。いい場所だと思っても、周辺に高い場所がないことが多いんです」
さらに「人もいればいるほどいい」といいます。高さと人の多さ。その点でいうと富山(に限らずほかのローカルでも)は撮影環境として優位性があるわけではありません。
「都会のバタついてる感じが一番ジオラマっぽく見える。だから富山はやりやすいわけではありません。東京は、被写体そのものが数字を持っています。だけど、逆に富山でやっているほうが、つくり手のセンスが問われるような感じはしていて、やりがいがありますね」
この活動を通して富山の魅力を伝えたいのかといえば、それが第一ではないようです。
「新しい場所を教えたり、富山の魅力を発信しようという気持ちで始めたわけではありません。いますでにあるものでも、切り取り方次第で世界に発信できたり、数字を持つことができるということを伝えたいと思っています」

有利な環境ではないからこそ、創意工夫をする意義があります。もちろん結果的に富山を知ってもらうきっかけになればうれしいとも。
「自分の発信を見て、富山に興味を持ってもらうことはもちろんうれしい。クリエイターやアーティストがまずは“認知”を生み出して、そのあとに仕組みや施設がついてくる。そういう順序でもいいんじゃないかと思うんです」
実際、Instagramでのリーチは世界中に広がり、フォロワーの約7割が海外ユーザー。ニューヨーク・タイムズに富山市が掲載された際には、アメリカのフォロワーから「君の作品の場所じゃないか?」と連絡が来たほどです。海外からでも大きく「日本」ではなく、ピンポイントで「富山」と認識されるきっかけにもなっているようです。
富山だからバズったということもあるでしょう。仮に渋谷駅のスクランブル交差点の映像だったとしたら、なんとなく見たことがあったり、知っている場所として認知されます。そのような有名なスポットとは異なり、富山の日常の風景であれば、まずは映像のおもしろさ自体にフォーカスされます。だからこそ、世界へと通じる個性になったのかもしれません。

現在では、自身のSNS運用だけでなく、映像マーケティングのコンサルやオンラインサロンも展開。さらに海外での展示活動も広がっています。サンフランシスコでの展示にはAppleのアートディレクターも訪れたといいます。
「ユーザーとしては同じ1ですけどね」と笑いますが、「フォロワーが10万人ではなく100万人だったら仕事につながったかもしれない」と、数字が持つチカラを再認識したようです。
現状では、「富山の風景」というより「かわいい、おもしろいミニチュア動画」として認識されている、つまりクリエイティビティのほうが先を走っている状態です。あとから富山の風景だと知って2度発見があります。
「見たことある、聞いたことあると認知されることが一番重要です。そういう意味では、富山の入口として意味があるものになっていれば幸いです。願わくば、富山を訪れてくれるなど、次のステップに進んでもらえればうれしいです」
credit text:大草朋宏 photo:利波 由紀子