日本の原風景を残す砺波平野を望むアートホテル
築約120年の古民家を再生した〈楽土庵〉は3組限定のスモールラグジュアリーホテル。空間や食事、アクティビティなどを通じて、県内で古くから大事にされてきた「土徳」の精神を伝えています。
〈楽土庵〉がある富山県西部に位置する砺波平野には、水田エリアのなかに農家の家々が点在する“散居村”と呼ばれる風景が残っています。長い時間をかけて自然と人が共生しながらつくりあげた農村の景観は見る人の心を癒してくれます。現在、日本に5つある散居村のなかでも砺波平野の散居村は、220平方キロメートルという日本最大の広さを誇ります。
砺波平野に点在する民家は、冬の南西からの季節風を防ぐため南西側に屋敷林が植えられ、玄関が東を向いていることで「アズマダチ」と呼ばれています。アズマダチは立派な切妻屋根、貫(ぬき)と束(つか)と呼ばれる妻梁(つまばり)と白漆喰壁(しろしっくいかべ)が特徴で、富山の風土に適合した住居スタイル。このアズマダチを改修し、3組限定のアートホテルとして生まれ変わったのが〈楽土庵〉です。
「建物自体は200年ほど前につくられたもので、この場所に移築されたのが約120年前。しばらく空き家でしたが、次世代へつなぐため、宿として再生することにしました」
そう語るのは宿を運営する一般社団法人 富山県西部観光社〈水と匠〉のプロデューサー、林口砂里さん。
宿に入ると、外からは想像のつかなかった、程よく明るい開放的な空間に少し驚きます。
「富山では仏教、特に浄土真宗への信仰が厚く、聞法(もんぽう)道場を真似て、一般家庭でもお坊さんを呼んで説法を聞く習慣があったため、家が広くなったと言われています。立派な梁や柱は現在ではもう手に入れることが難しく、当時のまま再生しています」