コンセプトごとに設えられた3部屋
3つある客室には、富山の伝統工芸や風土が凝縮されています。
「富山に拠点を置き、インテリアショップ運営や建築設計・デザインを行う〈五割一分〉さんと一緒に空間づくりを行いました。できるだけ自然素材を使いたいと思い、3室それぞれ『和紙・絹・土』と内装の素材を変えています」
「紙 shi」という部屋は、天井と壁に手漉きの和紙をふんだんに使用した温かみのある空間になっています。北欧家具の〈ポール・ケアホルム〉のPK22や〈ルイス・ポールセン〉のテーブルランプに、西アジアのバルーチ族のトライバルラグ、李朝の教卓などのアジア家具が違和感なく配置されているのが印象的です。
室内には床の間のような空間が用意されており、民藝や工芸、現代アートなどが設えられています。〈楽土庵〉では富山と関わりの深い板画家・棟方志功をはじめ、河井寛次郎や濱田庄司などが手がけた貴重な民藝作品や内藤礼や林裕子といった現代作家のアート作品のほか、富山の工芸作家の作品など、30以上の作家の作品を蒐集し、季節ごとに展示品を組み替えています。そのため、訪れる度に新たな出合いが楽しめます。また、こういった民藝品やアート作品はその多くが購入可能。同じ時間を過ごし、気に入ったら家に迎え入れることができるといいます。
「絹 ken」は、富山の絹織物会社〈松井機業〉が手がける“しけ絹”という絹織物を壁と天井一面に使用したゲストルーム。通常、蚕は一頭でひとつの繭をつくりますが、二頭の蚕がひとつの繭をつくることがあり、その玉糸を使って折り上げるのが“しけ絹”です。
「太さが不均一な玉糸は扱いが難しく、ほかでは捨てられてしまうことが多いのですが、〈松井機業〉は、命を粗末にしないという姿勢で、その玉糸を大事に使って“しけ絹”を織り上げます。ところどころに節が現れた天然の風合いが独特の模様となっています」
一番広い客室は「土 do」。左官職人が手がけた土壁に、作家の林友子さんが敷地内で採取した土で制作したアートパネルが印象的です。広いウッドデッキはプライバシーを保つため木の外壁でぐるりと囲まれていますが、そこに設けられた窓を開けると、田んぼの景色が目に飛び込んできます。周囲の自然環境に溶け込むようにつくられた宿だということがあらためてわかります。
客室棟の隣には、富山県内で活動する作家や民藝作品、食品を購入できるブティックとイタリアンレストラン〈イルクリマ〉を併設。富山県内の野菜や海でとれた魚介類を使うほか、砺波平野で採れた酒米でつくるリゾットや、地元産の小麦粉を使った手打ちパスタが提供されています。
「散居村を次世代に残すためにはやはり、田んぼが欠かせません。微力でも積極的にこの土地で収穫された米や小麦粉を使うことで、景観を未来へ残していきたいです」