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美しい茶道具の数々
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散居村の美しい景観とともに
“土徳”を伝えるアートホテル〈楽土庵〉 | Page 3

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富山の『土徳』を伝えたい

〈楽土庵〉をつくった背景には、この土地に長らく伝わってきた伝統や文化と深いつながりがあるようです。その価値は、国内や海外へ発信すべきものだと林口さんは考えます

「私たちはDMO(Destination Management Organization=観光を通じて地域づくりを行う法人)として、観光を軸に地域を活性化することを目指して活動しています。観光業で経済的に豊かになることが最終目標ではなく、一番大事なことは富山の『土徳』を伝えることです」

土徳とは民藝運動の創始者である柳宗悦がつくった言葉です。

「言語化は難しいのですが、土地が醸し出す空気のようなもの。私たちは、厳しくも雄大な自然とそこに暮らす人々が一緒になってつくり上げた“土地の品格”のようなものではないかと思っています。この自然と人間の共生のあり方は今の時代に欠かせないものだと思い、国内外の人たちにその価値観を伝えていきたいと思いました。この地に足を運んでいただき、食事をしたり、村を歩いたり、寝泊まりすることで、何かを感じ取っていただけるのではないかと思い、宿をつくることにしました」

その価値を伝える手段のひとつとして、富山県産の木の精油を使ったブレンドオイルづくりや地域の寺で伝わる伝統的な太鼓芸能の見学など、さまざまなアクティビティが用意されています。ラウンジに設けられた立礼卓では、宿泊者にはお茶が振る舞われます。

4種の茶道具
Shimoo designの立礼卓の上に並べられた美しい茶道具の数々。

「富山県は石川県に次いで全国で2番目に茶道人口が多い県です。浄土真宗の寺も多く、藪内流(やぶのうちりゅう)の流派が盛んです。スタッフには藪内流の教師もおり、立礼(椅子に座って行うお点前)でお茶を差し上げています。また、リクエストがあれば、ゲストも茶道体験をしていただけます。富山県で育まれてきた文化や人々の暮らし、信仰を未来に引き継いでいきたい。そのためにこの土地がどのような場所であるかさまざまなアクティビティを通じて知ってもらいたいと思っています」

すべての宿泊者を対象として散居村ウォークも実施。このアクティビティでは、集落の人々から愛される光圓寺、大欅を財として建立された桑野神社などの周辺スポットを巡るほか、道のあちこちに鎮座した石仏の姿を拝むことができます。

「砺波市内にはおよそ5500体もの石仏があり、風や雪から仏さまを守るために小さな祠に祀られているものも多いです。歩いているだけで、この土地で仏教信仰がいかに心の拠り所となっているか感じ取っていただけるのではないでしょうか。また〈楽土庵〉の周辺は修験道が盛んだった聖なる山々を見渡せる場所にあり、歩くだけで雄大な景色を楽しむこともできます。田植えを終えたばかりの5、6月は田んぼに水が張られていて、まるで水鏡のような景観。冬は雪が降り積り、辺り一面が真っ白になります。そうした季節の違いも楽しんでいただけたら」

散居村に点在する中に石仏が祀られた小さな祠
江戸時代から明治時代にかけて村々の若集によって建てられた石仏は、今も地元の人たちによって大切に守られています。

富山の自然や伝統を色濃く感じ取れる〈楽土庵〉では、「リジェネラティブ(再生)・ツーリズム」という新たな旅のスタイルを提唱しています。楽土庵に宿泊することで、お客様が癒されるだけでなく、地域の再生・回復にも寄与できるというものです。

「宿泊された方の心や体を再生しつつ、地域の再生にもつなげられたらと。その一環として、宿泊料金の2%を散居村保全活動を行う団体へ寄付しています。昨年のオープンから、約1年が経ちましたがもともと散居村をご存じの方だけでなく、インテリアや建築、民藝が好きで来てくださる方も少なくありません。そうした方々に、散居村の歴史やこの土地で受け継がれてきた精神を伝えていき、この風景を次世代に残す手伝いができたらと思っています」

楽土庵周辺の農業用水路
農業用水路は防火や消融雪など生活用水としても活用されています。

こうして宿泊客に環境や文化を感じてもらうだけではなく、直接的に地域への働きかけも行っています。大きな活動にしていかないと間に合わないという思いがありました。

「地元の方向けにセミナーを開いて、散居村の保全を市民運動にしていきたい。私たちだけががんばっても維持できないという危機感があったからです。この場所を訪れてくださった国内外の人たちと一緒になって、地域保全、伝統の継承に取り組めるコミュニティをつくることができたらうれしいですね」

古民家とラグジュアリーな設えの組み合わせが魅力となっている小さなホテル。民藝やインテリア、建築などに興味を持って泊まってみると、〈楽土庵〉が考える散居村という自然環境や地域の暮らしを随所に感じられる空間が広がっていました。

Information
楽土庵
address:富山県砺波市野村島645
tel:0763-77-3315
access:砺波ICから車で6分
定休日:火曜(祝日の場合は営業)
Web:楽土庵

credit text:浦本真梨子 photo:兼下昌典

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