富山市の中心部にある総曲輪(そうがわ)エリア。本願寺富山別院の裏手にある長屋には、古書店や開放感のあるコーヒースタンドなど、個性的な8軒のショップが立ち並んでいます。地元の人たちから、通称「別院仲通り」と呼ばれ、注目されるこの通り。その一角に静かに佇むのが、民芸品や現代の作家による作品を扱う〈林ショップ〉です。
店主の林悠介さんが〈林ショップ〉をオープンしたのは2010年。前店主の菊地龍勝さんが、この地で42年営んできた〈きくち民芸店〉を引き継ぐかたちで始まりました。
長年育まれてきた文化が息づく、
総曲輪の一角に佇む〈林ショップ〉
小学生の頃から図工が好きで、祖母の影響もあり民芸品が身近にある環境で育ったという林さん。石川県の大学で環境デザインを学び、卒業後は大学で興味を持った写真の仕事に就くため上京。東京の写真現像所で働き始めてから数年後、叔父さんから1本の電話が。
「『菊地さんが悠介に店を継いでもらえないかって言ってるよ』と。とても驚きましたが、民芸好きの祖母がよく通っていて、僕も子どもの頃から祖母や両親に連れられて訪れた思い出がある大切な店。これも“ご縁”だと思ったのと、『長く愛されてきた店をなくしてはだめだ』という思いもあり、富山に戻って店を継ぐことを決めました」
なぜ林さんに後継者としての白羽の矢が立ったのでしょう? と尋ねると、「どうしてだったんでしょうね」と、林さん自身もふしぎそうな様子。ただ、店を継ぐ際には菊地さんとつながりのある方や窯元を紹介してくださり、菊地さんの運転で全国各地の仕入れ先をまわったといいます。
「店を継ぐときも、余計なことは言われませんでした。菊地さんは普段から口数が多いほうではない方なのですが、僕が選ぶものに関しても何も言わない。ものを選ぶということには、自分も自信があるというか、唯一そこだけはできるなって思っていました」
日常に溶けこむ、
民芸品や現代作家の手仕事に出合う
どれも生活になじみ、そばに置いておきたくなるものを求めて、自らつくり手のもとへ訪ね、実際に見て本当にいいなと感じられるものを選んでいるそう。そのため1点ものが多く、数点あるものでも厳密にはひとつとして同じものはないからこそ、特別な逸品との出合いも。
林さん自身も2005年から高岡鋳物の原型デザインや制作を始め、林ショップを営む傍ら、創作活動を行っています。店内には、鋳物のまち・高岡で、江戸時代から続く〈大寺幸八郎商店〉の6代目である従兄弟の大寺康太さんと手がける「おおてらのミニ干支」シリーズも。
銅そのものを生かした色合いや、「茶」「黒」の硫黄の化学反応によって重圧感のある輝きが印象的なものまで、手のひらにおさまるサイズ感ながらも、どこかユニークで大きな存在感を放っています。
林ショップを軸に広がる交流の輪。
隣接するギャラリースペース〈スケッチ〉
今年、13年目を迎えた〈林ショップ〉。30歳から始めたこの店も「ここの長屋には8軒の個人店があるのですが、気づけばうちが2番目に長くやっている店になりました」と言う林さん。
あっという間の13年だったそうですが、北陸新幹線の開業に伴い富山県外からのお客さんが増えたり、長屋に新店が増えて店主同士の交流が活発になったりと、さまざまな変化が。
なかでも「大きな変化だった」というのが、〈林ショップ〉の隣接したギャラリースペース〈スケッチ〉のオープン。2016年夏、お店を通じで出会った3人の仲間とともに共同で運営することになったそう。
「普段はそれぞれのメンバーがデッサン教室、フランス語教室を開催し、不定期ですが展覧会やライブ、上映会なども開催しています。以前から、周りの人たちと何かやりたいと思った時に使える場所があったらいいなと思っていて。そのおかげで色々な出合いや、自分でも思いつかないアイデアが生まれて、実現できる場にもなっています」
「13年お店をやってきて、ありがたいことに多くの方が来てくださるようになりました。扱っているものを含めて〈林ショップ〉には、自分の好きなものが詰まっている。店づくりをしながら、写真や絵画、鋳物作品の制作する時間も今後はもっとつくっていきたいと思っています」
長い文化が息づく総曲輪の一角で、ゆっくりと時間を積み重ねながら、生活に溶けこむ「いいもの」を受け継ぎ、ものづくりの奥深さを共有できる場に。林さんのつくり上げる世界観に惹かれて、わざわざ足を運びたくなる〈林ショップ〉。きっと初めて訪れる人も、あたたかみのある手仕事に触れ、特別な逸品に出合えるはずです。
tel:076-424-5330
営業時間:11:00〜19:00
定休日:火・水曜(不定休あり)
Web:林ショップ
※2024年1月以降は営業日変更の可能性あり。最新の情報については、公式サイトでご確認ください。
credit text:大西マリコ photo:黒川ひろみ