霊柩車さえも華やかに
斬新な発想をかたちにするたしかな手仕事
年間生産約1000台。ほかの国内メーカーに比べて最も生産数は少ないものの、1台1台にかける思いは強く、すべての工程が自社工場で職人の手作業によって行われています。現場を覗くと、そこは工場というよりも、ひとりひとりがじっくりと作品に向き合う“アトリエ”といった印象を受けます。
乗用車以外にも、オリジナルの霊柩車も一定の売上を誇り、こちらはほぼ大工仕事。
「霊柩車をつくるということに対してもすごくポジティブに捉えていて、大切な仕事だと思っています。その人の人生の最期を華やかに送り出したい。故人やご家族の気持ちを思い、悲しみではなく、あえて華やかな“おみおくり”を表現しています」
トヨタやホンダ、マツダなど、大手自動車メーカーも、実はローカルが発祥だったり、ローカルに拠点を持っています。ミツオカもまた、富山のクラフトマンシップあふれるものづくり精神を大切にして全国に発信しています。
「富山はYKKや三協立山アルミなどの世界的なメーカーも多く、昔から工業が根付いているまち。部品の仕入れもしやすく、ものづくりには向いている環境なんです。関東にも関西にもすぐに行ける立地もすごくメリットがあって、納車や資材の調達もスムーズ。真面目で勤勉な県民性も、いい車をつくるには欠かせない要素です」
さらに重要なのが周辺の自然環境だともいいます。気持ちよく働く環境も大切な要素です。
「個人的には関東から富山に来て27年になりますが、富山の自然は素晴らしい。晴れた日に会社から見る立山連峰は本当に神々しくて、お金を出しても買えないほどの付加価値をいつも楽しんでいます」
2年前に「MITSUOKA grand store」(ミツオカ グランドストア)という旗艦店がオープンし、富山県内での活動の幅を広げています。1階には「MITSUOKA富山ショールーム」「フィアット/アバルト富山」に加えて、ティールーム「actea」(アクティー)があり、ティーブレイクしながら車を眺めることができます。普通のカフェとしても利用できるので、車を買うという目的や動機ではなくても、気軽に訪れることができそう。
2階は歴代の車や現行ラインナップの展示スペースでありながら多目的に利用できるホールになっていて、なんとライブ演奏が行われることもあるとか。ミツオカファン、自動車ファンが集まるコミュニティスポットとして賑いを生み出しています。
今年で創業56年を迎え、次なる目標は100周年。ハイブリッドカーや電気自動車が台頭し、自動車業界にも時代の移り変わりがあります。ミツオカにもこれまでとは違う車が生まれてくるかもしれません。それでもきっと、変わらない芯があるはずです。
「世間は、次はどんなことやってくれるんだろうという期待感を持ってくれています。僕自身がミツオカのファンとして、その期待感を的確に表現し、そのときの時代感を捉えながら、お客様に喜んでもらえる車を提供していきたいと思います」
創業者、光岡進氏から直接意思を受け継いだ最後の世代である青木さん。現在は後継者の育成を含め、ミツオカの新時代を築くために日々チャレンジを続けています。次に、富山から世界を驚かす車が生まれる日はいつか。大いに期待が膨らみます。
営業時間:10:00~19:00(acteaは18:00まで)
定休日:火曜、第2・3水曜
Instagram(アクティー):@mitsuoka_actea
credit text:辰巳健太 photo:利波由紀子