
世界初の鋳造製ポットスチル
富山・高岡銅器製〈ZEMON〉の開発
三郎丸蒸留所の再興にあたり、稲垣さんはただ復活させるだけでなく、唯一無二の、さらに富山であることを誇れるウイスキーをつくることを目指しました。その象徴ともいえるのが、〈ZEMON(ゼモン)〉というポットスチル(蒸留器)です。一般的なポットスチルは鍛造による銅製ですが、稲垣さんは富山県高岡市の伝統産業である高岡銅器の技術を応用し、銅と錫の合金による鋳造製ポットスチルを生み出しました。

高岡銅器は、400年以上の歴史を持ち、仏具や工芸品のみならず、精密な金属加工技術で知られています。その高い鋳造技術をポットスチルに応用することで、約80年という耐用年数を実現。熱効率も良く、従来に比べて同じエネルギーで蒸留できる量が188%に上がるという。さらにZEMONは錫の効果により蒸留の過程で生まれる香味成分を引き出し、まろやかな酒質を生み出すといいます。

これだけ大きなものを、鋳造でつくることができるメーカーは全国でもそうありません。製造元の〈老子(おいご)製作所〉は、梵鐘をつくるメーカーで国内シェアは約70%。なんとなくかたちも似ています。
「若鶴酒造から車で10分ほどの場所に老子製作所はありますが、そのくらいの近い距離感ではなければ完成しなかったのではないかと思います」と稲垣さんが言うように、世界初の鋳造蒸留器は難しい試み。それだけに稲垣さんは老子製作所を何度も訪れたといいます。まさにローカルだからこそ生み出すことができた傑作です。
話題性のあるZEMONが、高岡銅器の伝統や産業において活性化に役立つことを、稲垣さんは期待します。

このZEMONの誕生によって、三郎丸蒸留所のウイスキーは味わいも背景のストーリーも含めて唯一無二の個性を持つものとなり、日本のクラフトウイスキーの中でも際立つ存在になりました。
