これが富山の本気!
海辺も山もそれぞれに迎える春の富山
射水市在住のフォトグラファー、イナガキヤストさん。2020年春から富山県内の風景の美しい場所を精力的に訪れては、最高の瞬間を写真におさめようと撮影活動を続けています。
その写真を「#富山の本気」のハッシュタグとともにSNSに投稿したところ反響多数。たくさんの人たちの心を癒してきました。今回イナガキさんに紹介してもらったのは美しい富山の春。温かい日差しのもとで咲き誇るチューリップや水が入った田んぼに映る夕日、そして標高約2450メートルの地で太陽が照らす雪景色など、春の富山でしか見られない瞬間です。
心に効く春の景色1
山の向こうには水平線も!
黄金の夕日を映す散居村のパノラマ(砺波市)
県の西部に広がる砺波平野には大規模な散居村があります。散居村とは平野に家々が点々と建っている集落形態のことで、砺波平野の散居村は日本で最大規模です。農作業がしやすいように家の周りに田んぼを配置し、強い風や日差しから守るために家の周りに屋敷林を作り、その木材も生活に活かしていました。昔の人の知恵はすごいですね。
標高約433メートルの小高い場所に散居村展望広場と散居村展望台があります。どちらも有名な撮影スポットです。田植えが行われる5月上旬から中旬にかけては県外からも散居村を撮影しようとたくさんの人がやってきます。
この時期は田んぼの水位が高く、稲も幼いので水面に空の色が映り込みます。特に夕日が沈む時間帯は夕焼けの光が黄金のグラデーションのように反射して見えます。散居村の建物や屋敷林がシルエットのようになった様子も幻想的です。
僕も田植えの時期からしばらく繰り返し通って散居村の夕景を撮影しています。三脚に設置したカメラを横にしたり縦にしたり、沈んでいく太陽に合わせて画角や構図を変えて見ますが、何度撮影しても少しずつ違って飽きないし癒されます。
この写真は空気が澄んでいた日に散居村展望広場から撮ったもの。夕日の右下あたりをよく見ると、山と山の間に海が見えます。水平線に夕日が落ちようとしているところを捉えられた1枚です。
この山は石川県との県境あたりで、わずかに見える海は能登半島の西側です。何度も足を運んでいるのに、海を意識したのは初めてだったので、ふしぎな感じがしました。富山が誇る散居村の風景が美しいタイミングのなかでも、かなり希少な一瞬だったのかもしれません。
心に効く春の景色2
標高2450メートルの春。
雪山を見渡す室堂平(立山町)
立山連峰の自然や黒部ダムなど雄大な景色を満喫できる立山黒部アルペンルート。毎年国内外からたくさんの人がやってきますが、12月から翌年4月中旬までは休業しています。
この写真は2021年4月15日の営業再開当日に室堂平で撮影したものです。撮影したのは午前7時すぎ。撮影のため前日から訪れていたので、この景色を独占させてもらいました。小さく写っているのは同行してくれた立山黒部アルペンルートの担当者さん。一面の雪で距離や規模がわからないから50メートルほど向こうまで歩いてもらったので、彼の足跡だけが雪の上に残っています。
室堂平は標高約2450メートル。4月中旬の平均気温が1℃から6℃ですが、酸素が薄くて、不安定な雪の上を歩くので汗だくになります。雪が溶けたあとは歩道以外を通ることができないので、雪に覆われている間は自由に歩ける楽しい時間です。
富山で暮らしていると、冬のおわりには雪はもうたくさんだと思うことも。1年で最初に室堂まで行くのは平地の雪はとっくに解けて、桜の花も終わりかけたころ。そんな時期に白銀の世界に飛び込むと、やっぱり雪ってきれいだと新鮮に感じます。標高が高いせいか空の青も濃く、そのコントラストを見ることで瞬間的にエネルギーが湧いてくるようです。
室堂平はケーブルカーやバスを乗り継いで行くことができます。春の時期は室堂ターミナルでバスを降りるとすぐに写真のような雪に覆われた景色が広がっているので毎回ワクワクします。カメラを本格的に始めてから登山にも目覚めましたが、やっぱり立山に登って見られる景色には他にはない美しさと力強さを感じます。
access:富山県側から 富山地方鉄道富山駅から約1時間の立山駅下車後、立山ケーブルカーで移動
休業日:12月1日~4月中旬
Web:立山黒部アルペンルート 公式サイト
※最新情報については、公式サイトをご確認ください。
心に効く春の景色3
立山を背景に咲き誇る、
国内最大級のチューリップ畑(入善町)
富山は日本一のチューリップ生産地。県花にも制定されており、毎年春になると、県東部の入善町では、雪が残る立山連峰を背景に、いろとりどりのチューリップがずらっと並ぶ姿に圧倒されます。
この写真は昨年『にゅうぜんフラワーロード』を訪れたときに撮影した1枚。このイベントは規模が大きいだけでなく、毎年会場が変わるというユニークさもあります。球根を育てることが目的なのでイベント終盤には花びらが摘み取られていきます。
2023年の会場は海に面していて、隣に風力発電用の風車がある場所でした。敷地面積は5.2ヘクタール。東京ドームよりひと回り大きい敷地が一面チューリップ畑です。赤、ピンク、黄色、白がそれぞれ列を成していてきれいですが、同時に強烈という言葉が浮かぶほど迫力もあります。左奥の方に写り込んだ人や車とチューリップ畑を見比べると、規模の大きさが伝わると思います。
立山連峰を背景にチューリップ畑の色が線のように並んで見えるように撮影しました。花が圧縮されたかのように重なって見えて、チューリップの色合いを際立たせることができました。撮影している間も日差しがポカポカ。鮮やかなチューリップを見ながらシャッターを切っていると、本格的に春が来たなぁと体も心も緩むようです。
※2024年の開催は終了。球根栽培を主体に開催しているため、毎年会場が変わります。最新情報は公式サイトをご確認ください。
入場料:無料
Web:にゅうぜんフラワーロード 公式サイト
1981年富山県生まれ。SNSに投稿した風景写真が話題を呼び、一躍、富山を代表する写真家となる。総SNSフォロワー数は18万人を超え、2022年12月には“富山の本気”を撮影した初の写真集『ぼくたちの大切な時間(KADOKAWA)』が刊行された。射水市公式フォトアンバサダー、富山県警察フォトアンバサダー、Xperiaアンバサダーを務める。Instagram|@inagakiyasuto
credit photo:イナガキヤスト text:野崎さおり