これが富山の本気! あの絶景も夏仕様。
表情豊かな「夏の富山」
射水市在住のフォトグラファー、イナガキヤストさん。2020年春から富山県内の風景のうつくしい場所で撮影した写真を、ハッシュタグ「#富山の本気」をつけて発信しています。その写真はたくさんの人を癒してきましたが、イナガキさん自身もカメラを通して富山の心に効く景色をいくつも発見して、豊かな気持ちになったと感じています。
今回のテーマは「夏の景色」。透明度の高い海、気軽に行けて緑豊かな渓谷、そしてイナガキさんが大好きな海沿いの景勝地です。夏らしい開放的な光と清々しさや涼やかさも、写真を通してお届けします。
心に効く夏の景色1
透明感ある富山湾と夏の雲を臨む、
滑川海浜公園(滑川市)
ホタルイカと蜃気楼が有名な滑川市。海に面した場所にある滑川海浜公園。2023年4月にはオートキャンプ場も整備されました。撮影に訪れた日は、天気がよく風も穏やか。夏休みはもう終わっていましたが、4つあるオートキャンプ場の区画はすべて埋まっていました。
滑川海浜公園は、日本海が目の前に広がっているだけでなく、反対側は水田で視界を遮るものがほとんどありません。公園内の少し小高くなった場所にやぐらのような展望台があって、海側は天気次第で能登半島まで、くるっと反対を向けば立山連峰のパノラマが見えます。海と山、どちらも富山らしい景色を堪能できるスポットとしては、まだあまり知られていない穴場かもしれません。
オートキャンプ場を撮影していたら、海も空もすごくきれいなことに気づいて、足は自然と海の方へ。公園と海の間にある富山湾岸サイクリングロードを渡って、その先の階段状に波打ち際を整備したところで撮影しました。
消波ブロックで上下を分けるようにして、下側に海、上側に空と雲だけを入れました。僕は、撮影場所がわかるような何かを入れて撮影することがほとんどですが、このときはとにかく海と空のうつくしさを写真に収めたいと思いました。
滑川の海がこんなにも透明度が高いと意識したのはこのときが初めて。海の青さや透明感が伝わるように、カメラを構える高さを探りました。沖の方に飛んでいくような雲の流れも、形が変わってしまう前に撮影したいと思い、超広角のレンズを使ったおかげで、海と空、それぞれの青と、ドラマチックな雲の広がり、海水の透明度も感じられる写真に。
高い山々から海がすごく近いという地形も富山の特徴のひとつ。背中に立山連峰を感じながら、そのダイナミックさに導かれるような時間でした。
心に効く夏の景色2
まるで異世界! 多種多様な
緑に包まれた渓流、千巌渓(上市町)
立山連峰の剱岳のふもとにある上市町。標高160メートルほどの山間に、〈大岩山日石寺(おおいわさんにっせきじ)〉という1300年以上の歴史あるお寺があります。そのすぐそばにある、緑に包まれた渓谷〈千巌渓(せんがんけい)〉。千巌渓まではお寺の駐車場から徒歩で5分ほどです。
川沿いにつくられた遊歩道を進むと、手の届く場所に絶妙なバランスで鎮座する巨大な岩があったり、柵や道の脇にも苔がびっしり生えていたりと、この場所には不思議な力があるような気がしてきます。音をたてて流れる川と背の高い木々がつくる陰のおかげで、あたりは夏の昼間でもひんやり。全身にマイナスイオンを浴びているかのようで、暑さに疲れた身体をクールダウンできる場所です。
写真中央の赤い柵は、階段状になった橋です。この写真では、階段の赤色をポイントにして、この場所が草木やコケなどいろんな緑に囲まれている様子を伝えたいと考えました。橋の下で勢いよく流れる川の水も写り込ませたことで、向こうにも空間が広がっていることがわかってもらえるはずです。
千巌渓を初めて訪れたのは2021年です。富山駅周辺からなら車で30分あまり。特別な装備もなく気軽に立ち寄れるのに、異世界に迷い込んだようで、日常のせわしさも忘れてしまいます。
秋の紅葉も見事ですが、千巌渓はやっぱり夏がいちばん。周辺よりずいぶん涼しいだけでなく、大岩山は「大岩そうめん」というそうめんが名物だからです。千巌渓の何重もの緑や水の音、涼しい空気に癒されてから、キンと冷えたそうめんを食べる。平野部の暑さとのギャップを感じるお出かけ先としておすすめです。
心に効く夏の景色3
立ち昇る入道雲は準主役級。
雨晴海岸と海越しの女岩(高岡市)
高岡市にある雨晴海岸は、富山を代表する絶景のひとつです。海上にある「女岩(めいわ)」と呼ばれる島、その背後に残雪を被った立山連峰が見えることで有名です。海越しに3000メートル級の山々が見える世界的にも珍しい景勝地で、僕はこの場所で数え切れないほど撮影してきました。
さすがの立山も夏には雪が溶けて、少し寂しくなりますが、入道雲が立山連峰の代わりのように景色をイキイキと見せてくれるときがあります。この写真を撮影した日は、ぐんと勢いのある入道雲が発生した日でした。入道雲を撮影するぞと車で能登半島を少し北上して氷見で撮影。その後海岸沿いを自宅のある射水方面に戻る途中、雨晴海岸で撮影したのがこの写真です。
雲は形も位置も動くので、偶然に出合う姿を逃したくありません。だからこそ、いい入道雲が現れた夏の日は撮影にも気合いが入ります。この写真では、大きな入道雲を引き立たせたいと、前後に移動して撮影ポイントを探りました。砂浜で女岩を眺めている人や海を泳ぐ人を入れて、雲の大きさが伝わることを狙いました。
雨晴海岸は、僕にとっては立山連峰の剱岳を大きく撮影するのと同じぐらい大好きなモチーフです。すぐそばにはJR氷見線の雨晴駅と「道の駅雨晴」があります。氷見線の線路は海沿いを走っているので、タイミングを合わせれば、海と女岩、立山連峰を背景に列車が走るという盛りだくさんの写真を撮影することも可能です。周辺を歩いたり、見る角度を変えたりするだけで、躍動感ある風景をいくつも目撃できます。
何度訪れても「ああ、いい景色だなあ」と思いますし、もっとたくさんの人に届く本気の富山、本気の雨晴海岸を写真に収めたいとワクワクさせられる場所です。
access:JR氷見線雨晴駅から徒歩約5分、能越自動車道高岡北ICから車で約15分、北陸自動車道高岡砺波スマートICから車で約35分
Web:国定公園 雨晴海岸
1981年富山県生まれ。SNSに投稿した風景写真が話題を呼び、一躍、富山を代表する写真家となる。総SNSフォロワー数は18万人を超え、2022年12月には“富山の本気”を撮影した初の写真集『ぼくたちの大切な時間(KADOKAWA)』が刊行された。射水市公式フォトアンバサダー、富山県警察フォトアンバサダー、Xperiaアンバサダーを務める。Instagram|@inagakiyasuto
credit photo:イナガキヤスト text:野崎さおり