雄大な立山連峰と富山湾、山と海に囲まれ、豊かな自然の恵みをいっぱいに受ける富山県は、その場所に身を置くだけで心もカラダも癒される、美しい景色の宝庫です。そんな富山ならではの絶景を撮り続けるフォトグラファー・イナガキヤストさんによる連載企画『心に効く景色』の第1回では、写真で切り取る「秋の富山」をお届けします。
これが富山の本気!
独自の感性で撮り続けてきた「秋の富山」
射水市を拠点に活動するイナガキさんが、本格的に富山を撮影するようになったのは2020年春。ちょうどコロナ禍の時期で外出が制限されるなかで、生まれ育った富山の風景を「#富山の本気」のハッシュタグを付けて、SNSに投稿したところ、写真を見つけてくれたユーザーから「富山に行ってみたい」「絶景に癒された」と、全国各地から想像を超える反響があったそう。それから自分がカメラにおさめた景色を通じて、富山をより身近に感じるきっかけになったら……という思いで、季節や時間とともに移りゆく絶景を撮り続けて約3年半。これまでイナガキさん自身が、その場所を訪れ、すがすがしい景色に心が洗われ富山の魅力を実感する3枚とともに、その撮影ポイントを教えてくれました。
心に効く秋の景色1
古き良き風情が残る港町「内川」(射水市)
射水市の内川エリアにある「日本のベニス」と呼ばれる港町には、漁船が行き交う運河、川べりには民家が立ち並び、風情あるまち並みは映画やドラマのロケ地として使われることも。
古き良き雰囲気を色濃く残しながらも、最近はリノベーションされたカフェやバーなども増えており、新旧の文化が共存しているのがおもしろくて、僕も散策したり、飲みに行くこともあります。
東西約3.5キロメートルに渡り延びる内川からは、天気の良い日には立山連峰を望むことができ、なかでも剱岳(つるぎだけ)は鋭い岩稜が特徴で、富山県のシンボル的な存在です。
この写真は、山と川が織りなす絶景を求めて去年の10月に撮影したのですが、実は年に2度(10月と2月頃)、朝日に照らされた剱岳を見るチャンスが訪れるのです。
剱岳の奥から朝日が昇る瞬間まで、天候の心配がつきものなので毎回ドキドキしますが、この日は朝日に照らされてキラキラ輝く水面を、漁船が走る姿をタイミング良く写真におさめることができました。
早朝に朝日が昇るのを静かに待っている間は、近くに人が住んでいるのか、つい疑ってしまうほど、シーンとしています。ですが、日の出とともに沖から漁船が次々と戻ってきて一気に賑やかになる。港町の非日常から日常へ。そのギャップにワクワクさせられる場所なのです。
access:北陸新幹線「新高岡駅」から加越能バス(石瀬・牧野・新湊経由海王丸パーク行き)で約45分、「立町」で下車徒歩約5分
Web:川の駅新湊
※内川への目印:川の駅新湊のすぐ後ろが内川です。
心に効く秋の景色2
田園風景の中に佇む世界遺産「相倉合掌造り集落」(南砺市)
どこか懐かしい素朴な原風景に癒される五箇山(ごかやま)の「相倉合掌(あいのくらがっしょう)造り集落」には、毎シーズン撮影で訪れています。世界遺産として注目されているものの、昔ながらの景観を残し、良い意味で観光地化されておらず、たびたび訪れたくなるスポットです。訪れる季節によって、伝統的な合掌造りと自然のコンビネーションに四季の移ろいを感じられます。春は桜、夏に宿泊した際には、星空の美しさに感動し、冬の雪景色との相性もすばらしい。
秋の紅葉シーズンは見ごろの時期を狙って撮影に訪れるのですが、山間部のため平野部よりも色づき始めるのも早いので、その時期にしか撮ることができない貴重な瞬間でもあります。同じ場所でも、季節によって変化する美しい景色を眺めながら、ゆっくりとながれる時間に、なんだか心も癒されます。
この写真は、相倉集落の駐車場から山道を10分ほど登ったところにある「相倉集落全景撮影スポット」から、のどかな田園風景のなかに佇む集落を一望しながら撮影したもの。赤や黄色に色づいた木々の枝を左右に額縁のように配置し、その先に広がる、素朴でどこか懐かしい景色を写真で切り取りました。まるでタイムスリップしたかのような、奥行きを感じられる一枚で、とても気に入っています。
access:JR城端線城端駅から世界遺産バスで25分「相倉口」下車後徒歩約5分
営業時間:8:30〜17:00
定休日:無休
Web:世界遺産 相倉合掌造り集落 五箇山彩歳
心に効く秋の景色3
360度の大パラノマ「立山黒部アルペンルート」(立山町)
僕が定期的に撮影に訪れるのが、秋の「立山黒部アルペンルート」。国内外の人々が訪れる富山を代表するスポットであり、やはり醍醐味は紅葉シーズンの壮大な眺めです。撮影したのは、断崖にそびえ立つ、標高2316メートルの高さから立山の絶景を見下ろすことができる「大観峰駅」の展望台からの景色。「タンボ平」の紅葉の、秋の訪れを待ちわびていたかのような木々の美しさには、毎回圧倒されます。
(1本も支柱を使わないワンスパン方式のロープウェイとして)日本最長を誇る、全長1700メートルの立山ロープウェイは、大観峰から黒部平を結び、乗車時間は約7分間。周りに遮るものが一切ないので、一帯に広がる絶景を見下ろしていると、まるで紅葉の絨毯の上に浮かび飛んでいるような解放感に満ちあふれます。
紅葉のグラデーションに包まれた絶景も迫力満点ですが、その奥には、富山平野からは見えない「後立山(うしろたてやま)連峰」や黒部ダムの貯水池「黒部湖」、行き来するロープウェイを一望でき、富山の自然を存分に体感できる絶好のスポットです。
富山の学生は宿泊学習などで、立山登山をする機会があるのですが、撮影で訪れると、よく小学生や子どもたちの集団も見かけます。僕も小学校のときに登ったことはあったのですが、この雄大な立山の景色は、大人になった今でも新鮮で、毎回感動してしまう。何度だって訪れたくなる、こんな美しい景色が富山にあるのだと、僕自身も撮りながら、誇らしくなります。
access:富山県側から 富山地方鉄道富山駅から約1時間、立山駅下車後、立山ケーブルカーで移動
access:長野県側から 扇沢駅から関電トンネル電気バスで移動
営業期間:4月15日~11月30日(2023年)
休業日:12月1日~4月中旬
Web:立山黒部アルペンルート 公式サイト
※最新の情報については、公式サイトでご確認ください。
1981年富山県生まれ。SNSに投稿した風景写真が話題を呼び、一躍、富山を代表する写真家となる。総SNSフォロワー数は18万人を超え、2022年12月には“富山の本気”を撮影した初の写真集『ぼくたちの大切な時間(KADOKAWA)』が刊行された。射水市公式フォトアンバサダー、富山県警察フォトアンバサダー、Xperiaアンバサダーを務める。Instagram|@inagakiyasuto
credit photo:イナガキヤスト text:野崎さおり