山のイラスト
〈SAYS FARM〉の敷地と富山湾を見下ろした景色
travel, gourmet, well-being

氷見の拠点となるワイナリー〈SAYS FARM〉
老舗魚問屋がつくった「海のワイン」

series|とやまwellbeing place

やると決めたら、やる。
「海の男」たちの熱量と心意気

富山の氷見といえば魚。お酒といえば日本酒。ワインづくりとは無縁だったこの地にワイナリーが生まれたのは今から13年前のこと。富山湾と立山連峰を一望できる、里山の小さな丘の上に〈SAYS FARM(セイズファーム)〉はあります。

テロワールという言葉をダイレクトに感じられるのが、SAYS FARMのワイン。さらに、寒ブリをはじめとした氷見の魚と合わせたときに最適なブドウの品種を選んでいます。そのとき獲れたものやつくられたものを、その土地で味わうことができるという、贅沢な食体験がここにあります。

〈SAYS FARM〉のぶどう畑
ドメーヌとして、100%自社栽培・醸造にこだわったワインづくりを行う。現在は約8ヘクタールの畑で24000本の欧州種系ブドウを栽培している。

敷地内にはワイナリーのほかショップ&ギャラリー、ワインとともに氷見の食材でつくる料理を味わえるレストラン〈KITCHEN〉や、1日1組限定のゲストハウス〈STAY〉があり、周囲は広大な森や畑に囲まれています。

そんな場所にしばし佇んでいると、聞こえてくるのは虫たちの声や鳥のさえずり。感じられるのは、澄んだ空気とおだやかな風、静かに流れる時間。自然とさまざまな生き物と、人々の営みがゆるやかに交差する風景を眺めていると、本来私たちが求めている心地良さとは何であるか、再認識させられるようでもありました。

テーブルに置かれたワインボトルが3本
氷見の土壌を生かした「ミネラル感」が特徴のSAYS FARMのワイン。左から、カベルネ・ソーヴィニヨン2021、余川ルージュ2021。右のソーヴィニヨン・ブラン2023は、昨年を象徴する厳しい暑さがワインにも現れているという。

SAYS FARMの母体は、富山の氷見で江戸時代から続く老舗魚問屋の〈釣屋(つりや)〉。仲卸業を中心に、食堂の経営や加工品なども手がけています。富山市の東岩瀬にいったことがある人や、日本酒やお酒好きの人であれば、どこかで「つりや」の干物や燻製、瓶詰めを目にしたことがあるかもしれません。

コース料理のメイン、真鯛を使った料理
コースのメインの魚は、氷見で水揚げされた真鯛。香ばしい焼き目としっとりとした身の弾力、じゅんさいの食感と風味豊かな葱のソースが一体となった、イタリア料理出身の渡邉隆二シェフによる一皿。ナスタチウムやエディブルフラワーの彩りも爽やか。コースは要予約(7500円)、平日限定でアラカルトメニューも。
デザートのチョコレートケーキ
ドルチェメニューのチョコラータ(700円)。

「ワイナリーをやろうと思う」。SAYS FARMは、「SAY」という名前のとおり、すべてはある男性の「ひとこと」から始まりました。発起人は釣 誠二さん。全国的に知られる氷見の寒ブリで冬場は賑わうが、それ以外に何か地域に貢献できることはないかと考えた結果、辿り着いたのが農業であり、ワインづくりでした。

〈SAYS FARM〉併設のショップ店内
併設のショップでは、ワインはもちろん自社栽培や県内産りんごを使ったシードルもある。また、農園で採れた果物を使った加工品や日用品なども販売。

そもそも、富山は雨も多く日照量も少ないため、果樹栽培に適した気候とはいえません。ゆえに、氷見においてワインづくりの知見は皆無といった状態。そんななか、普段は魚問屋として海をフィールドに働いてきた人たちが、20年以上も耕作放棄地であった土地を耕すところから始め、ブドウ栽培とワイン醸造の知識と技術を学び、ゼロからコツコツと積み上げていきました。

しかしながら、開業準備を進めるなかで、誠二さんは病に倒れ、自身の夢であったワイナリーのオープンを見届けることなく、志半ばにして亡くなってしまいます。一時はプロジェクトの継続自体も危ぶまれたものの、兄の釣吉範さんと立ち上げメンバーの3人は、誠二さんの意志を継ぐことを決意。2011年10月、SAYS FARMをこの地にオープンしました。

丘の上に設置された「SAYS FARM」と書かれた小さな看板
丘を登り切ったところにある、控えめな看板。晴れていれば富山湾と立山連峰がきれいに見えるが、取材当日は生憎の空模様。しかしながらこれも、雨の日が多い富山の日常。

魚問屋がつくる、氷見ならではの土地を生かした「海のワイン」。ここでしか味わえないもの、ここでしか得られない体験や価値をもとめて、開業以来、全国からやってくる人があとを絶ちません。その理由は、この場所を訪れて環境の中に身を置くことで、あるいはスタッフのみなさんの人柄や言葉にふれることでしか感じられない魅力があるからです。

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