山のイラスト
熟成中のワインの木樽が並ぶ
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氷見の拠点となるワイナリー〈SAYS FARM〉
老舗魚問屋がつくった「海のワイン」 | Page 2

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氷見らしいワインを求め続けて
辿り着いた品種「アルバリーニョ」

SAYS FARMのように自社原料と製造にこだわり、ブドウの栽培から醸造のほか、熟成や瓶詰めまで一貫して行う生産者やワイナリーを「ドメーヌ」といいます。氷見という土地が生む、この土地らしい、ここでしかできないワインづくり。富山湾から丘に向かって吹く海風、やわらかい陽の光、冬の畑に降り積もる雪。これらすべてが氷見ならではの「味」をつくる要素であり、テロワールを体現したものがSAYS FARMのワインでもあるのです。

貯蔵庫へと降りる階段
醸造棟の地下にある貯蔵庫へ。気温は常に16度前後で保っているため、夏場は階段を降りるとひんやり。スタッフのみなさんは薄手のアウターを着て作業していた。

2007年よりブドウ畑を開墾し、現在は約8ヘクタールの畑に7品種の欧州系ブドウを栽培。当初はシャルドネのほか、メルロー、ソーヴィニヨン・ブランなどを中心にさまざまな品種を試すなか、あるとき氷見の土壌と気候にぴったりな品種に出合います。それが「アルバリーニョ」。もともと海の近くでつくられていることと、魚介との相性の良さもあって“海のワイン”とも呼ばれています。

「スペインのリアス・バイシャスという地域で栽培されている品種です。雨が多い氷見の気候とよく似ていて、爽やかな酸味のなかに感じるミネラル感が特徴です」

フレンチオーク材を使った木樽。〈SAYS FARM〉のイメージイラストが焼印されている
ワインの発酵や熟成の樽はフレンチオーク材を使用。ほかにステンレスタンクもある。

説明してくれたのは、栽培と醸造の責任者を務める田向 俊(たむかい・しゅん)さん。氷見出身で、大学卒業後は東京で飲食業界に携わり、15年前にUターン。新たな働き口として魚問屋に入ったものの、待っていたのはブドウの栽培とワイナリーの立ち上げという思いがけない展開でした。

スタッフの皆さんがラベル貼り作業中
8月発売の「アルバリーニョ2024」のラベル貼りと蝋キャップの封蝋作業。ひとつひとつ手作業で行っている。
ワインボトルの封蝋作業

「僕らの仕事は魚がメインだったので、実際にブドウを植えて、おいしいワインができて、それを届けることができるかまったくわからないなかでのスタートでした。しかも当初、社員はたったひとりだけ。ただ、やるってことだけは決まっていたので、土地が決まる前からシャルドネとカベルネの苗を4000本も注文していました(笑)。そういうのは誠二さんらしいんですよね」

魚料理にもっとも合うというロゼワインがストックされている
こちらはロゼ。従来のイメージを覆す良質なロゼワインをつくるため、品種にもこだわって栽培している。

魚問屋とあって、単純に魚がいれば仕事はあるが、魚がいなければ仕事はない。ワイナリーをつくることでその状況を良い方向へと変えられないか。釣屋というグループ内で上手く連携できないかという考えが、誠二さんにはあったようです。

「ブドウの収穫時期は、待ったなし。ここだ、というタイミングで穫らないと、おいしいものはできません。魚が少ない時期は漁も短いため、仕事が終わったら山に上がり、ブドウ畑の草刈りや収穫時期の手伝いをしてもらいます。逆に寒ブリで繁忙期を迎える冬場は畑の仕事ができないことから、ワイナリーのチームである僕らが魚問屋の仕事を手伝ったりすることもあります」

栽培と醸造責任者の田向俊さん
栽培と醸造責任者の田向 俊さん。SAYS FARMの立ち上げメンバーであり、ゼロからワインづくりを学んだ。

アルバリーニョやシャルドネのように、SAYS FARMらしさが宿るワインといえばもうひとつ、ロゼも覚えておきたい。

「氷見の魚は冬場になると脂が乗るので、白ワインだと魚の味が勝っちゃうんです。では赤かというと、そうでもない。白の要素もありながらボリュームが欲しいということで、寒ブリに合うロゼを考えたんです。日本のロゼ市場は極端に小さいですが、世界では一番飲まれている事実があります。和食や日本の食材にも合わせやすいので、今はロゼのためのブドウ栽培も本格的に行っています」

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