人口が増え続けている、日本一小さな村へ
面積3.47平方キロメートル、人口約3000人の舟橋村は、富山県の真ん中にある日本一小さな村です。富山市内からのアクセスがいいことから、平成以降ベッドタウンとして人口の増加が著しく、最新の国勢調査においては富山県内で唯一、人口が増加し続けている自治体となりました。
そんな舟橋村に、今年5月に保育料ゼロの学童保育施設〈fork toyama〉が誕生。それに先駆けて4月には、同敷地内に〈noki fork cafe〉がオープンしました。いずれも、木々に囲まれた緑豊かな立地にあり、ガラス張りのカフェ店内には柔らかな木漏れ陽が降り注いでいます。屋外にシームレスにつながるかのような空間は開放感にあふれ、ゆったりとした時間が流れています。
ところが、昼下がりから夕方にかけては、学校から直行する子どもたちの楽園に様変わり。わいわいと賑やかな時間が始まります。
保育料ゼロの学童保育の理由
子どもたちが通う学童保育施設、fork toyamaは、なんと月々の保育料がゼロ。なぜなら、サポーター制度に参加している企業や個人のほか、カフェの売り上げが運営費に充てられているから。そのほか、ただいま準備中のコワーキングスペースの利用料も、学童を支えます。
代表の岡山史興さんが、クラウドファウンディングなどを使ってサポーターを募り、資金を調達。会費制を継続させて、子育てをみんなで営む仕組みを“みん営”と呼び、運営を軌道に乗せています。現在、fork toyamaには、約30名の子どもたちが通っています。
富山旅の情報通がいるカウンター
週に4日開くカフェでは、オリジナルのブレンドコーヒーやジュースなどのほか、ベイクドサンドやケーキなどの軽食が提供されています。学童をサポートする会員は、月に1杯フリー。全ドリンクも100円引きになる特典つき。もちろん、会員以外も気軽に利用できます。
カウンターに立つのは、インスタグラマーとして活動する“富山旅女子”えみこむさん。
訪れた9月末には、学童の子どもたちが考案した期間限定のドリンクメニューもありました。このドリンクは、地元の「ふなはしまつり」で「forkのジュース屋さん」として子どもたちが自らお店に立ち、販売したもの。好評だったので、カフェでも提供することに。
「ドリンクを目当てに、子どもたちのおじいちゃんおばあちゃんが来るなど、カフェは学童と外との接点にもなっているんですよ」とえみこむさん。
またここには、fork toyamaのサポーターが、直接現金で会費を支払いにくることも。基本的には、クラウドファウンディングサイトを使ってサポーター募集・会費徴収していますが、近隣のお年寄りなどは「クラウド? ようわからん」とカフェにやってくるのだそうです。
アットホームな場の空気を醸し出しているのは、そこにあるすべてのものが外に開いているから。鬱蒼と閉じた森の中でしばらく休んでいた古民家が、学童とカフェとして活用されることで、地域に広く開かれた場に変身しました。
家の軒先のように、開かれたカフェ
店名のnokiは、日本家屋の軒(のき)に由来していると岡山さんは言います。
「この古民家を初めて見たとき、軒先が特徴的でした。学童の保育スペースは板間で、入り口が縁側。上がコワーキングスペースで個室になっているので長屋。それぞれ日本建築の名称に合わせてコンセプトを立てていて、ここは軒ということに」
学童保育や子育ての“みん営化”という仕組みに関わる入り口、軒先になるという意味で、nokiと名づけたそう。
カフェには、学童中でも近所から親子連れでちょっと休みにきた人、リモートワークしにきた人が訪れます。ときどき、えみこむさんのファンもおしゃべりしにやってきます。地域の人たちがくつろぎ、大きなガラス越しに子どもたちを見守ることが「子育てのみん営化」につながっているのです。
保育料ゼロを支える仕組みを持続可能にし、同様の取り組みを各地に広めていきたいという岡山さん。子どもの能力を伸ばす自由な場所を担保することと、子育てする保護者の負担減は結果的に社会利益につながります。
また、所得の多少にかかわらず、誰でも安心して子どもを預けられることによって保護者も働く選択肢が増えることになります。放課後、子どもたちは多様な人たちと関わり合いながら自由にのびのびと過ごすことで、未来の選択肢を増やすことはいうまでもないでしょう。
学童の“みん営化”を持続可能にすることは、子育てをする親が安心して働けることを保証するのと同時に、未来の社会を担う子どもたちを支えることにつながります。これからそれを実証していきたい、と岡山さんは言います。
カフェで過ごす時間で、“みん営”に参加する
おいしいコーヒーと軽食をいただきながら心地よく過ごすことが、地域社会の未来をつくる一端を担うだなんて、カフェで座っているときには想像もつかないかもしれません。fork toyamaには、カフェやSNSという広く開かれた門戸があるから、興味がわいたらすぐにサポーターになることもできます。
この仕組みに共感してサポートすると、社会課題を解決するコミュニケーション領域のプロである岡山さんの、PRやプランニングなどの“技術”でリターンされる例もあり得ます。
今後は、学童部分の2階にある長屋、コワーキングスペースも整備し、コミュニティデザインに長けたゲストを遠方から呼ぶイベントも計画しています。これからますます、子どもも大人も、創造力が刺激される場所になりそうなfork toyama。現在、全国からの視察も増えているとか。そんな進化中のfork toyamaを訪れて、noki fork cafeで“みん営化”に参加してみませんか?
credit text:朝比奈千鶴 photo:片岡杏子