自然豊かな立山町は、古くから受け継がれる伝統工芸品「越中瀬戸焼」や「蛭谷和紙」など、風土と人が紡ぐ、さまざまな手仕事が培われ、ものづくりが盛んです。「日々の生活で使う器も、手仕事のあたたかみを感じられるものを、取り入れるようにしているので、旅先では、その地域の工芸品を見るのが好きなんです。どんなすてきな出合いがあるのか楽しみ!」と期待に胸を膨らませる高山さんとともに、立山の手仕事に触れる旅へ。
小さな古民家で出合う〈巣巣〉の手仕事雑貨
北アルプスの麓、立山町ののどかな田園風景を眺めながらたどり着いたのは、〈巣巣(すす)〉という小さなお店。一見、民家のようにも見えますが、のぞいてみると小さな看板がありました。レトロな趣のあるガラス戸を開けてさっそく店内へ。
昭和40年頃に建てられた古民家の雰囲気を活かした店内には、店主の岩﨑朋子さんがセレクトした雑貨、洋服、アクセサリー、スツールなどがところせましとディスプレイされています。
「人の手仕事やものづくりの背景を感じられる雑貨を見ると集めたくなるので、つい目移りしちゃいます。丁寧に愛情をかけられてつくられたものって、大切にできるし、受け継いでいくこともできる。今だけじゃない感じがして、すごくいいなと思うんです」(高山さん)
東京・等々力で16年間、家具と雑貨のお店を営んでいた岩﨑さん。豊かな自然を身近に感じられる場所への移転を考えていたところ、たまたま立山に縁があり、移住を決意。2020年6月、この地に〈巣巣〉を再オープンしました。
「等々力のお店をしていた頃から、お付き合いのあった作家さんの作品のほか、ラトビアやリトアニア、インドネシアで買い付けた洋服なども扱っています。富山に移住したことで、地元の作家さんの作品も増えています。蚤の市で声をかけてお取り扱いが始まったり、知人の紹介で知り合う作家さんもいて、新しい出合いが広がっています」と岩﨑さん。
「器を少しずつ集めているのですが、大きめのサイズが増えてきたので、最近は小さいサイズに惹かれるんです。おかずをちょこんと盛り付けて食卓に並べたりして楽しんでいます」と、おちょこサイズの器が気になるという高山さん。ものを選ぶときは、「3つ以上の使い道が想像できるか」で最終的に決めるのだそう。
「木工の器はどこか素朴であたたかみがあっていいですよね。ただ美しいだけじゃなくて、耐久性も道具としての魅力があって。このサイズなら、お酒を飲むのにも、いくらやもずくなど、ちょっとした薬味やおつまみを入れるのにもよさそう。3つ思いついてしまったので、決めちゃおうかな」(高山さん)
器や工芸品に目がない高山さん。岩﨑さんとのおしゃべりも盛り上がっていました。
「渋皮煮もほんのりラムが効いていておいしい。お庭で梅や栗も採れるなんて、日常のなかで、こんな身近に手仕事を感じられるなんて、すてきですよね。なんだか友だちのおうちに遊びにきたみたいな感覚で、ほっとしちゃいますね」(高山さん)
tel:076-463-6603
access:富山地方鉄道立山線 沢中山駅から徒歩2分、北陸自動車道立山ICから約20分
Web:巣巣(すす)
※3月から12月中旬までの期間、事前予約にて木〜土曜に営業
蛭谷和紙の歴史と技術を受け継ぐ、
唯一の和紙工房〈川原製作所〉
次に訪れたのは、北アルプス定倉山を源とする小川の畔の小さな集落にある〈川原製作所〉。
約400年の歴史を持つ、国の伝統工芸品「蛭谷(びるだん)和紙」を受け継ぐ、唯一の和紙職人・川原隆邦さんとその息子の大郎くんが工房で出迎えてくれました。
蛭谷和紙最後の職人・米丘寅吉さんに弟子入りし、「郷土の大切な文化を途絶えさせたくない」という思いから、当時83歳の師匠から口伝で教わった製法と技術を継承したという川原さん。師匠が亡くなったあと、蛭谷から立山町に作業場を移し、一人で山を開墾し、和紙づくりに欠かせない原料も自ら育てています。
川原さんの工房では、建築資材として使われるような和紙ガラス、特殊加工やデザインがほどこされたアートともいえる和紙作品をはじめ、習字などに使われる一般的な和紙のイメージを覆すような、独自のクリエイティビティが光る和紙がつくられています。
「未来の視点を大事にしたいなと思いながら、和紙や伝統工芸の持つエンターテインメント性を探っています。伝統工芸というのはどうしても場所や過去をどう継承するかという話になりがちなのですが、本来は技術とイズムなはず。もっと広げることはできるんじゃないかと思い、今はオーダーメイドでさまざまな和紙をつくっています。息子もだいぶ頼もしくなってきたので、一緒に楽しく製作に励んでいます」(川原隆邦さん)
幼い頃からお父さんの和紙づくりを間近に見て学んできた10歳の大郎くん。もう立派な和紙職人のひとりです。まずは和紙の原料について「楮(こうぞ)というクワ科の植物の皮が和紙づくりの原料になります。楮の繊維はとても強く、この繊維が編み物のように絡み合うことで和紙になるんです」と教えてくれました。
原料を栽培から手がける和紙職人は国内に数えるほどしかいないそう。こうして一から育てるところから行うのも蛭谷和紙の大きな特徴。できあがる和紙や作品への思いもより深まります。
繊維を木槌でたたき、ほぐしていきます。そのほぐし加減で、和紙にしたときの目の細かさや粗さが決まっていくので、重要な作業です。
「結構ちからが必要ですね。たたいているときは繊維状だったけど、水に入れるとふわ〜と溶けちゃいました。これがこのあと和紙になるんですよね……? なんだかまだ想像ができないです」(高山さん)
トロロアオイによって粘度が増してきたら、いよいよ紙漉きをしていきます。
「『簀桁』(すけた)とよばれる簾(すだれ)状の紙漉き用の枠をそっと水に落とし、ゆっくりと前後に揺らしていくんです。揺らしながら繊維が編み込まれて和紙になっていきます」と実践してくれる大郎くんの表情は真剣そのものです。
垂直に簀桁を下ろし、すくい、水分が抜けて繊維が簀に定着したら、再度すくう、その作業を繰り返しながら、自分の仕上げたいイメージに合わせて調整していきます。
「大郎くんはすごく簡単そうにやってたけど、自分でやってみると結構難しい……! でもこうしてひとつのことに集中していると、適度な緊張感がありつつも、無心になれていいですね」(高山さん)
紙漉きを終えると、簀桁から枠を外し、乾燥に適した湿り具合にするため水分を抜きます。和紙を乾かす間、川原さんがこれまで手がけた作品を見せてもらいました。
和紙を1枚1枚切り抜いて生み出したように見えますが、実は、紙漉きの枠に型をつくって漉くことで、何枚も同じ模様の和紙をできあがるといいます。川原さんがこれまで培ってきた技術やアイデアに触れ、和紙から広がる、さまざまな表現になんだかわくわくしてきます。
「和紙って普段なじみがないから、最初はみなさんもったないから取っておこうって思われるのですが、ぜひ使ってみてください。そして、和紙ってこんな風合いなんだ、こんなに強いんだというのを体験してみてほしいですね。クシャクシャになっても、それがまたいい味になりますから」(川原さん)
高山さんも「オリジナルの和紙づくり、身近なところでも和紙どう取り入れるか、何に使うか考えるのも楽しいですね。ちょっとした贈りものを包むのもいいし、ブックカバーにしてもいいかも!」と、完成した和紙への思い入れもひとしお。歴史と技術、豊かな風土で育まれる、川原さんのものづくりに触れ、特別な逸品を手に入れることができました。