山のイラスト
加茂彫泉堂で版画に挑戦する在原みゆ紀さん
travel, gourmet, craft

木彫りのまち・井波にひらかれた宿
〈Bed and Craft〉で、
在原みゆ紀が体験する3つのこと

feature|PRIVATE DOORS「在原みゆ紀が旅する南砺。民藝・クラフトトリップ」

富山を代表する工芸のひとつであり、250年以上の歴史を持つ「井波彫刻」。粗彫りから仕上げまで、何種類もの鑿(のみ)や彫刻刀を駆使して掘り上げる高度な技術が、緻密かつ立体的な躍動感あふれる作品に表れています。彫刻師や職人による手仕事を体感すべく、まずは南砺市・井波へ。体験するのは、学生時代に日本の伝統文化を学んでいたこともあるというモデルの在原みゆ紀さん。初めて訪れる富山。このまちで、どんな出会いが待っているのでしょうか。

本格的なものづくりにふれられる
職人の工房で「弟子入り」体験

木彫の工房が並ぶ井波のまち並み
井波のまち並み。通りには木彫の工房が軒を連ね、歩いていると木槌の音が聞こえてくる。

井波彫刻の発祥でもあるお寺、瑞泉寺から歩いて10分ほどの場所にある〈Bed and Craft〉は、「職人に弟子入りできる宿」がコンセプトの新しいスタイルの宿泊施設。1日1組限定の6つの宿を拠点に、まちに点在する職人の工房でワークショップを体験することができます。

〈Bed and Craft〉の入口
2016年にオープンした〈Bed and Craft〉。古民家を改修したモダンな空間だ。

さらに特筆すべきは、職人の仕事場で普段から使っている道具を使い、本格的な技術を学べるということ。Bed and Craft(以下、BnC)では、木彫りのスプーンや豆皿、漆の箸など5つの「弟子入り」体験プランがあり、それぞれに担当する「親方」がいます。

木彫版画の見本を手にする加茂薫さん
木彫版画の親方は、彫漆家・加茂薫さん。

在原さんが体験するのは「木彫りの版画」。大人から子どもまで楽しめる人気のプランです。親方である彫漆家・加茂薫さんの〈加茂彫泉堂〉を訪ねると、「おはようございます。お待ちしておりました!」と明るく出迎えてくれました。

机に置かれた彫漆(ちょうしつ)の作品
彫漆(ちょうしつ)とは、色漆を何層も塗り重ね、その上からノミで彫ることで模様や絵柄を表現する技法のこと(左下の作品は木彫版画の見本)。

井波で生まれ育ち、明治時代から続く井波彫刻の後継者でもある薫さんは、幼い頃から祖父であり3代目の加茂蕃山さんの影響で彫漆(ちょうしつ)に興味を持ち、4代目である父の元で木彫と彫漆の修業を始めました。

作業台にずらっと並ぶ彫刻刀
工房の作業台に並ぶ彫刻刀やノミは、ゆうに200種類以上はある。

はじめにお互いの自己紹介をし、体験の流れについて説明を受けます。そして版画のデザインを決めていきます。図案集から選ぶこともできますが、事前に下書きを用意しておくと当日がスムーズです。

「デザインは迷ったんですけど、なにせ初心者なもので……。私が飼っている犬の名前にしたいなと思っていて、カタカナで “アル”でもいいですか?」(在原さん)

「素敵ですね。いいと思いますよ。では、用意してもらった下書きのデザインをトレーシングペーパーで版木に書き写していきましょう」(加茂さん)

下書きをする在原さん
版木のデザインは、在原さんの愛犬の名前である「アル」に決定。

彫刻刀の持ち方や使い方、注意点などを確認したら、さっそく彫り始めていきます。まずは文字のアウトラインから。その後、内側の部分を彫っていきます。

文字のアウトラインを彫り進める
彫り方のアドバイスを受ける在原さん

「彫刻刀を使うのなんて、何年ぶりだろう。久々すぎて記憶が……(笑)。でも、日本の義務教育のなかでこういう授業があるっていうのは、なかなかすごいことですよね」(在原さん)

彫り進める様子を見守る「師匠」の加茂さん

「おっしゃるとおりで、海外から訪れる宿泊客の多くは、実際に彫刻刀にふれるのも初めてという方がほとんどなんですよ」(加茂さん)

「アル」の文字が彫られている
器用に手を動かす在原さんに、「道具の使い方が上手ですね」と加茂さん。文字の部分の完成が見えてきた。

工房にある彫刻刀やノミの刃の長さがそれぞれ異なるのは、常に研ぎながら使っているからだそうで、職人の最初の仕事は「道具をつくること」から始まるのだといいます。

彫刻刀の先を確かめる在原さん

「祖父の代からずっと使っているものもありますが、たいていの職人はまず、自分の道具を自分でつくるんですよ。使いやすいように工夫したり研いだりする練習をしているうちに、あっという間に半年くらいはかかってしまいます。なので、作品をつくれるようになるにはもっと時間がかかります」(加茂さん)

「私が小学校のに使っていたものと比べると、加茂さんの彫刻刀は刃の部分が長いんですね。それに刃がスッと通って、そこまで力が要らないというか。やっぱり手入れしながら大切に使われている道具だからでしょうか」(在原さん)

仕上げを手伝う加茂さん

途中で休憩を挟みながら彫り進め、ついに版木が完成。最後に「もう少し深さがあったほうがいいかも」と、加茂さんが仕上げをしてくれました。

次に、色を決めて「色摺り」の工程。好みの色ができるまで絵の具を調合していきます。単色はもちろん、複数の色を組み合わせることもできるそう。

梅皿にのせられたピンクの絵の具
「アルは黒のシュナウザーだから、あえてかわいい色に」と在原さんはピンクをチョイス。
彫った文字以外のところに絵の具をのせている
版木に水を染み込ませてから、定着させるために糊を混ぜた絵の具をのせていく。
和紙をのせてバレンで擦っている
バレンを手に「うわ、懐かしい!」と在原さん。版木に和紙をのせ、紙の上で円を描くように擦る。

さあ、いよいよ和紙をめくる瞬間です。はたして仕上がりはいかに。

和紙をめくった瞬間

できあがった作品を満面の笑みで見せてくれる在原さん。「おぉぉ〜!」という歓声と同時に、周囲で見守る人たちからは拍手が。

完成した作品を手にして笑顔の在原さん

「ちょっとかすれた感じも和紙ならではの味があって好きですね。それに自分で彫ったと思うと、なんだか愛着も湧いてきます」(在原さん)

3時間かけて行う本格的な体験のあとは、庭を眺めながら抹茶をいただいてほっと一息。職人という存在の偉大さを肌で感じるとともに、その仕事の厳しさや奥深さを想像するのでした。

縁側で抹茶をいただく在原さん
合間の休憩や体験後には、抹茶とお菓子をいただける。
Information
木彫りの版画
料金:13000円(1名あたり)
定員:4名(最少催行人数2名)
対象年齢:10歳以上
所要時間:3時間
場所:加茂彫泉堂(蕃山工房)
Web:木彫りの版画ワークショップ
※体験のみの予約は不可。BnC宿泊者限定の有料オプションとなります。
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