山のイラスト
光徳寺の境内に並べられた大きな甕の横でしゃがむ在原みゆ紀さん
travel, gourmet, craft

日本の美意識と信仰が深くいきづくまち
在原みゆ紀が感じる民藝の聖地・福光

feature|PRIVATE DOORS「在原みゆ紀が旅する南砺。民藝・クラフトトリップ」

在原みゆ紀さんが富山を訪れる旅も最終回。今回は南砺市の福光エリアを中心に城端にも足を延ばします。「民衆的工藝」の略で、日常使いの道具に「用の美」を見出した運動、民藝。その聖地といえば、島根や鳥取といったイメージを持つ人が多いかもしれませんが、柳宗悦や棟方志功ゆかりの地である南砺市・福光エリアにもはずせない名所が存在します。

歴史がありながらもアヴァンギャルドな寺院の〈光徳寺〉、棟方志功が暮らした住居や見ごたえのある作品を展示した〈福光美術館〉、さらには “泊まれる民藝館” として今年オープンした〈杜人舎〉など。先人たちの暮らしに思いを馳せながら、民藝の美意識や土徳の文化にふれる旅へ。

民芸品と蕎麦のおいしい関係。
舌で味わう〈福助〉の手仕事

〈手打ち石臼挽き蕎麦 福助〉の外観
周囲には田園風景が広がり、砺波市の中心から少し外れたところにある〈手打ち石臼挽き蕎麦 福助〉。

蕎麦が好きだという在原さんと最初にやってきたのは、砺波市の田園風景に佇む〈手打ち石臼挽き蕎麦 福助〉。歴史を感じさせる建物は、黒部市の山間部で養蚕場として使われていた古民家を移築したのだそうです。

〈福助〉店内の椅子に座る在原さん
移築した古民家を改装している建物は歴史を感じさせ、落ち着いた雰囲気。
ベンチに和紙でつくった敷物「和紙角座」が4つ敷かれている
型染の和紙でつくった敷物「和紙角座」。
2種類の倉敷ノッティングの椅子敷き
倉敷ノッティングの椅子敷き。

天井が高く解放感のある店内には、店主・西村忠剛さんのご両親や祖父の代から買い集めてきたという民芸品や調度品の数々が並びます。幼い頃からこういったものが身近にある環境で育ったという西村さん。

〈福助〉の「玄挽き田舎の海老天せいろ」
玄挽き田舎の海老天せいろ(2800円)。

「蕎麦もまた、民藝みたいなものじゃないですかね。昔の人が生み出してこれまでずっと続いてきた手仕事であり、日常の食として消費されてきたものというか。そういった側面にもつながるんじゃないかなと思います」

玄挽きそばを味わう在原さん
「私、お蕎麦のなかでも特に田舎蕎麦が好きなんです。玄挽きは風味がとってもいいですね」(在原さん)
20cm以上はある大きな海老天を持ち上げ

福助の蕎麦は「細挽きせいろ」と「玄挽き田舎」の2種類。在原さんが好きだという「玄挽き」は、蕎麦の実を殻ごと挽いているため、香ばしく野趣あふれる味わいが特徴です。また、出汁にこだわった「かえし(つゆ)」には本みりんを使い、かけとせいろの2種類をつくり分けています。

地元で栽培された玄蕎麦を、必要な量だけ前日に石臼挽きした自家製粉でつくる手間ひまかけた手打ち蕎麦は、西村さんの言葉どおり「民藝的」でもあると感じます。

古民家の情緒ある空間の中で、日本庭園を眺めながら蕎麦をいただく。職人の手仕事を目でも舌でも味わいながら、ゆったりと過ごす贅沢な時間です。

〈福助〉入口の暖簾をくぐる在原さん
Information
手打ち石臼挽き蕎麦 福助
address:富山県砺波市林947-1
tel:0763-33-2770
営業時間:11:30〜14:30(14:00L.O.) ※蕎麦が売り切れ次第終了
定休日:月曜 ※祝日の場合は翌火曜
Web:手打ち石臼挽き蕎麦 福助

伝統的なのに型破り。
ひらかれた民藝の寺〈光徳寺〉

たくさんの甕や壺が境内に並ぶ光徳寺
山門をくぐると、境内には大きな甕や壺が点在し、まるである種のインスタレーションアートのようでもある。

次にやってきたのは、棟方志功(むなかた・しこう)とゆかりの深い寺院である〈光徳寺〉。「世界のムナカタ」として知られる国際的な芸術家・棟方志功は青森生まれ。その後、芸術活動の拠点を東京に移したものの、富山の南砺市・福光とはどのような関係があったのでしょうか。

光徳寺の山門をくぐる在原さん
山号の「躅飛山(ちょくひざん)」は、第5代一雲のときに道場が雷火のため焼失したが、本尊は自ら躑躅(つつじ)株に飛んで難を逃れたことに由来するのだそう。
棟方志功の作品『蓮如上人の柵』が彫られた、山門下の石柱
門の下にある「蓮如上人の柵」は、棟方志功の版画が元になっている。

光徳寺のいちばんの見どころといえば、やはり襖絵の「華厳松」。ある日、裏山を散策中だった棟方が激しい霊感をとらえ、寺に駆け戻るや一気に6枚もの襖に描き上げたという作品は、大胆で力強い筆致に圧倒されます。

棟方志功の襖絵『華厳松』が展示されている
大胆かつ荘厳な松樹を描いた棟方志功の「華厳松」(昭和19年作)。

この作品は「仏様が紙の中にすでに描いておいでくださる。それを仏様にいただいた手で、仏様に支えられて、あとをなぞるだけ」と語る棟方志功の言葉が表れています。

光徳寺20世住職の髙坂道人さんに作品の説明を受ける在原さん
「今はガラスケースに入っていますけども、子どもの頃は建具として普通に使っていたんですよ」という光徳寺20世住職の髙坂道人さん。

「先代の住職で私の祖父にあたる貫昭が、民藝運動に共感するひとりだったんです。棟方さんと貫昭は、戦時中に河井寛次郎さんを介して知り合って親交を深め、戦火を逃れた棟方1家6人が福光に疎開したのは昭和20年のことです。6年と8か月を光徳寺と福光の地で過ごされました」(光徳寺20世住職 髙坂道人さん)

棟方志功の書『無盡蔵』
「無盡蔵(むじんぞう)」などの棟方作品も展示されている。
各国の工芸品や日本の民芸品が展示された一室
世界各地の工芸品や日本の民藝品の数々は、18世住職からのコレクションだという。
世界各地の壺や大皿などが展示されている

光徳寺のもうひとつの見どころは、18世住職から蒐集された民藝運動の巨匠たちの作品や世界の民芸コレクション。これには在原さんも興味津々。

和室には、中国の李朝の壺から素朴なアフリカの木製ベッドやスツールが並び、日本の寺院にいることを忘れてしまうほど。異なる宗教や文化を超えたものたちが一堂に展示されているにもかかわらず、不思議と調和した空間が生まれています。

アフリカの木製ベッドに横になる在原さん
「どうぞ横になってみてください」と、いわれるがままに。
大きな背もたれが特徴的な木製スツール
和室にはアフリカの木製のベッドやスツールが。
欄間に飾られた書が印象的な、様々な民芸品が飾られた和室
和室には書作品と生け花。敷物は日本のものではないが、空間に馴染んでいる。躍動感のあるやわらかい線で描かれた襖絵も印象的だ。

「こんなに世界じゅうのものがあるなんて新鮮。というかびっくりです。お寺じゃないみたい。敷地内にある大きな壺も、見ているだけで楽しいですよね。日本だけじゃなくて、アフリカや韓国のものも混ざっていると聞きました。しかも全部が住職のコレクションなんてすごいです」(在原さん)

境内の大きな甕の横でしゃがむ在原さん
人が入ったらすっぽりと隠れてしまいそうな大きな甕。

この場所を訪れてみて感じたのは、型にはまらない自由さと、あらゆるものとの距離が「近い」ということ。また、民藝品とは民衆が日々用いる工芸品であることから、ものは生活の中で使われてこそ。光徳寺という寺院は、真なるもの、美なるものとは何かを教えてくれるような場所でもありました。

たくさんの壺や甕が並べられた光徳寺の境内
Information
躅飛山 光徳寺
address:富山県南砺市福光法林寺308
tel:0763-52-0943
開館時間:9:00〜17:00
休館日:火・水・木曜
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