日本の美意識と信仰が深くいきづくまち
在原みゆ紀が感じる民藝の聖地・福光
feature|PRIVATE DOORS「在原みゆ紀が旅する南砺。民藝・クラフトトリップ」
在原みゆ紀さんが富山を訪れる旅も最終回。今回は南砺市の福光エリアを中心に城端にも足を延ばします。「民衆的工藝」の略で、日常使いの道具に「用の美」を見出した運動、民藝。その聖地といえば、島根や鳥取といったイメージを持つ人が多いかもしれませんが、柳宗悦や棟方志功ゆかりの地である南砺市・福光エリアにもはずせない名所が存在します。
歴史がありながらもアヴァンギャルドな寺院の〈光徳寺〉、棟方志功が暮らした住居や見ごたえのある作品を展示した〈福光美術館〉、さらには “泊まれる民藝館” として今年オープンした〈杜人舎〉など。先人たちの暮らしに思いを馳せながら、民藝の美意識や土徳の文化にふれる旅へ。
民芸品と蕎麦のおいしい関係。
舌で味わう〈福助〉の手仕事
蕎麦が好きだという在原さんと最初にやってきたのは、砺波市の田園風景に佇む〈手打ち石臼挽き蕎麦 福助〉。歴史を感じさせる建物は、黒部市の山間部で養蚕場として使われていた古民家を移築したのだそうです。
天井が高く解放感のある店内には、店主・西村忠剛さんのご両親や祖父の代から買い集めてきたという民芸品や調度品の数々が並びます。幼い頃からこういったものが身近にある環境で育ったという西村さん。
「蕎麦もまた、民藝みたいなものじゃないですかね。昔の人が生み出してこれまでずっと続いてきた手仕事であり、日常の食として消費されてきたものというか。そういった側面にもつながるんじゃないかなと思います」
福助の蕎麦は「細挽きせいろ」と「玄挽き田舎」の2種類。在原さんが好きだという「玄挽き」は、蕎麦の実を殻ごと挽いているため、香ばしく野趣あふれる味わいが特徴です。また、出汁にこだわった「かえし(つゆ)」には本みりんを使い、かけとせいろの2種類をつくり分けています。
地元で栽培された玄蕎麦を、必要な量だけ前日に石臼挽きした自家製粉でつくる手間ひまかけた手打ち蕎麦は、西村さんの言葉どおり「民藝的」でもあると感じます。
古民家の情緒ある空間の中で、日本庭園を眺めながら蕎麦をいただく。職人の手仕事を目でも舌でも味わいながら、ゆったりと過ごす贅沢な時間です。
tel:0763-33-2770
営業時間:11:30〜14:30(14:00L.O.) ※蕎麦が売り切れ次第終了
定休日:月曜 ※祝日の場合は翌火曜
Web:手打ち石臼挽き蕎麦 福助
伝統的なのに型破り。
ひらかれた民藝の寺〈光徳寺〉
次にやってきたのは、棟方志功(むなかた・しこう)とゆかりの深い寺院である〈光徳寺〉。「世界のムナカタ」として知られる国際的な芸術家・棟方志功は青森生まれ。その後、芸術活動の拠点を東京に移したものの、富山の南砺市・福光とはどのような関係があったのでしょうか。
光徳寺のいちばんの見どころといえば、やはり襖絵の「華厳松」。ある日、裏山を散策中だった棟方が激しい霊感をとらえ、寺に駆け戻るや一気に6枚もの襖に描き上げたという作品は、大胆で力強い筆致に圧倒されます。
この作品は「仏様が紙の中にすでに描いておいでくださる。それを仏様にいただいた手で、仏様に支えられて、あとをなぞるだけ」と語る棟方志功の言葉が表れています。
「先代の住職で私の祖父にあたる貫昭が、民藝運動に共感するひとりだったんです。棟方さんと貫昭は、戦時中に河井寛次郎さんを介して知り合って親交を深め、戦火を逃れた棟方1家6人が福光に疎開したのは昭和20年のことです。6年と8か月を光徳寺と福光の地で過ごされました」(光徳寺20世住職 髙坂道人さん)
光徳寺のもうひとつの見どころは、18世住職から蒐集された民藝運動の巨匠たちの作品や世界の民芸コレクション。これには在原さんも興味津々。
和室には、中国の李朝の壺から素朴なアフリカの木製ベッドやスツールが並び、日本の寺院にいることを忘れてしまうほど。異なる宗教や文化を超えたものたちが一堂に展示されているにもかかわらず、不思議と調和した空間が生まれています。
「こんなに世界じゅうのものがあるなんて新鮮。というかびっくりです。お寺じゃないみたい。敷地内にある大きな壺も、見ているだけで楽しいですよね。日本だけじゃなくて、アフリカや韓国のものも混ざっていると聞きました。しかも全部が住職のコレクションなんてすごいです」(在原さん)
この場所を訪れてみて感じたのは、型にはまらない自由さと、あらゆるものとの距離が「近い」ということ。また、民藝品とは民衆が日々用いる工芸品であることから、ものは生活の中で使われてこそ。光徳寺という寺院は、真なるもの、美なるものとは何かを教えてくれるような場所でもありました。
tel:0763-52-0943
開館時間:9:00〜17:00
休館日:火・水・木曜