日本の美意識と信仰が深くいきづくまち
在原みゆ紀が感じる民藝の聖地・福光 | Page 3
feature|PRIVATE DOORS「在原みゆ紀が旅する南砺。民藝・クラフトトリップ」
“泊まれる民藝館”〈杜人舎〉で
暮らしのなかにある「美」を問う
棟方志功の足跡を辿っていると、あらためて「民藝」とはどういうものか知りたい、土地との関わりを掘り下げてみたい、と思う人も多いのではないでしょうか。そこで、最後に南砺市の新たなカルチャースポットを訪れました。
550年もの歴史を持つ城端別院 善徳寺内にある〈杜人舎(もりとしゃ)〉は、“暮らしの糧をつくる 泊まれる民藝館” がコンセプトの複合施設。民藝運動の創始者である柳宗悦が富山を訪れた際、民藝思想の集大成となる論文『美の法門』を滞在しながら書き上げた場所が、この善徳寺でもあります。
研修道場は、柳宗悦の愛弟子である建築家の安川慶一によって設計されたことでも知られています。宿泊や研修以外にも利用でき、プロダクト論としてではなく、暮らしの哲学であり社会運動としての民藝を問い直す、集いの場としてもひらかれています。
柳宗悦らが提唱した「民藝」とは「民衆的工芸」を略した言葉であり、およそ100年以上前に生まれた美の概念につながるものでありました。1920年代当時の日本で近代化が進むなかで、生活のなかで用いられる手仕事のものに宿る美、すなわち「用の美」を通じて「美」を捉え直そうとしたのが民藝運動のはじまりです。
1940年代、富山の地を訪れた柳は、砺波地方の自然と共に生きる人々に出会い、この土地の精神風土を「ここには土徳がある」と表現しました。
「土徳(どとく)という言葉を説明するのはなかなか難しいですが、あえて一言でいうなら、土地の品格のようなものでしょうか。それは自然や文化であったり、食であり人であり、あらゆるところに宿っていると思います。
杜人舎には、泊まるだけでなくカフェやショップもありますし、さまざまな体験・研修プログラムもございます。地域の人々や訪れる人たちにとって、美しい暮らしの学び舎として、さまざまな暮らしの糧をつくる場として機能していけたらと思っています」(伊豆さん)
tel:0763-773-732
営業時間:ランチ11:00〜15:00、カフェ15:00〜17:00(16:30L.O.)、ショップ11:00〜17:00
定休日:月・火曜
Web:杜人舎 Cafe&Shop
「光徳寺の日本と世界の民芸品のコレクションのミックス感といい、棟方志功さんの住まいのいたるところに描かれた絵といい、まずは自分たちが楽しむことが民藝の魅力でもあるような気がしました。そうやって愛着を持ったものには、自然と大切にしようとする気持ちが生まれると思います。富山での旅を通じて、そんなことを感じましたね」(在原さん)
ものは暮らしのなかで使われてこそ、輝く瞬間があります。“古いものが好き” という在原さんのものに対する考え方と、民藝における「用の美」の価値観は、少なからず重なる部分があったようです。
また、人と自然によって育まれる「土徳」の文化にふれることは、現代において失われつつある大切なものを再確認させてくれるようでもありました。自分自身への小さな「問い」を携えて、赴くままに南砺市の福光や城端を旅してみてはいかがでしょうか。
ファッションモデル。1998年生まれ、千葉県出身。メンズウェアをバランスよく取り入れたオリジナルな着こなしや明るく自然体な人柄が支持され男女問わずにファンを持つ。男性誌、女性誌、広告やブランドディレクションなど幅広く出演依頼が舞い込み、最近は国内にとどまらず韓国でも活動中。Instagram|@ariharamiyuki
credit text:井上春香 photo:松木宏祐 hair & make:ボヨン styling:中井彩乃