〈ほとり座〉が地域にできること
少しずつではあるけれど、動員数は右肩上がりの成長を続けている〈ほとり座〉。ただし動員や売り上げを伸ばすばかりが目的ではないという姿勢が感じられます。ローカルのミニシアターが担うべき役割にも邁進しています。
「オープンして3年が経ち、徐々に〈ほとり座〉の影響力が周囲に見え始めたのではないかと思います。たとえばうちの学生バイトや新入社員の友達が集まり、映画を観た後に座談会をすることがあります。その様子を大人が見て興味を持ち、そこから会話が始まることも」
〈ほとり座〉のようなミニシアターの映画は、人によっては、オシャレ過ぎたり、高尚で難しいものと捉えられがちです。しかし田辺さんが「映画は最後の生命線」と言うように、映画には、たくさんの要素が詰まっていて、カルチャーを醸成できる「総合芸術」です。
「映画自体はすでに完成したものなので、僕たちができることは料理のスパイス程度にしかなりませんが、それこそが〈ほとり座〉で観る意味につながると思います。映画を観た後に感想を言い合う場所があったり、映画の世界観を体現したドリンクを飲んで気持ちを盛り上げたり。些細なことかもしれませんが、そういうことを大事にしたい。自分たちの上映したい映画よりも効率を意識した映画を選んだり、飲食の原価率を下げることばかり考えると働いている側の意識も下がり、それがお客さんにも伝わります」
新生〈ほとり座〉が目指すこと。その目線は高く向けられています。
「ここでしかできないイベントが実現でき、お客様の喜ぶ顔を目にすると、諦めずに続けてきてよかったと思います。正直『こんなにいい作品なのに思ったより人が入らない……』と肩を落としたこともありますが、誰かひとりでもこういった活動を続けていかないと映画業界も地方も衰退していく。やりたいことはまだまだたくさんあります。今年に入ってようやくコロナ前のような生活が戻ってきたことで、やっとスタートラインに立ったと思っています」
〈ほとり座〉の目標年間動員数は3万人。その3万人に対して、ただ映画を観る場所ではなく、世代間交流が生まれる場所、人々の生活に溶け込んだ文化発信の場所として、挑戦は始まったばかりです。
credit text:浦本真梨子 photo:兼下昌典