クラフト、美食、酒。
富山・岩瀬というまちの引力
日々、桝田さんのところへは全国各地からさまざまなゲストが訪ねてやってきます。この日もちょうど取材をしていると、京都のある有名料理店の夫妻が現れました。桝田さんが岩瀬のまちを一緒に歩きながら案内するとのことで、我々も便乗させてもらうことに。
「この400メートルの通りだけでも、日本料理店、寿司店、イタリアン、フレンチといったミシュラン掲載店が6軒あるし、クラフトビールのブリュワリーや日本酒のテイスティングができるお店もあります。それから焼き物やガラスの工房、鍛冶屋などクラフト作家たちも多く集まっています。富山の人たちってすごく団結力があって、料理人なんか特にそうなんだけど、よく一緒に食事をしたり仕事をヘルプし合ったりしていて、すごく良い関係性だなあと思うんですよね。だから見ていても気持ちがいいんです」
一方でこれらの飲食店は、カウンターのみで席数が限られているためにどうしても予約が取りにくいことや、作家は制作が中心であることから飛び込みの見学や接客対応が基本的に難しい状況があり、「正直なところ単純な観光目的でやってきた人たちが満足できるかどうかはわからない」とも話します。
「要するに岩瀬っていいまちなんだけど、ちょっとめんどくさいまちでもあるんですね(笑)。ふらっと遊びにくるのもハードルが高くなってしまっているこの状況は、みんなけっこう頭を抱えていると思います。せっかくきてもどこにも行けず終わってしまったらもったいないですから。ただおもしろいまちであることは間違いないので、ちゃんと目的や興味がある人だったら楽しめると思います」
若い頃は富山のアイデンティティというものが分からず、都市部に対するコンプレックスがあったという桝田さん。今ではここにしかない価値がたくさんあるといいます。豊かな食材の宝庫であること、それによって美食家たちが集まるようになったこと、そこから多様な人との出会いやつながりが生まれていったこと。それらの蓄積によって、まちの再生やローカルの魅力が醸成されてきたともいえるでしょう。
最後に、自身の故郷でもある岩瀬のこれからについて、どのように感じているのか尋ねました。
「富山にいながらにして、日本はもとより世界中からユニークなことをやっている人が集まってくる今の状況は、すごく楽しいですよ。でも、まだまだ岩瀬に足りないものは山ほどあります。たとえば、1組か2組ぐらいであれば泊まれる場所はあるものの、ホテルなどの宿泊施設が少ないんです。おいしいお酒とごはんを楽しんだらそのままゆっくり泊まりたいじゃないですか。それで翌朝、まちをのんびり散歩する。そんな過ごし方ができるようになったらいいだろうなと思いますよね」
access:富山港線「東岩瀬駅」から徒歩約12分、北陸自動車道富山ICから車で約25分
営業時間:10:00~17:00
Instagram:@masuizumi.saseki
credit text:井上春香 photo:日野敦友