家の中に川が流れ、リビングが庭園とつながる古民家
ガラス制作への意欲が高まったピーターさんは、工房を併設できる倉庫つきの新居を探し始めました。いま住んでいる古民家は、当時富山市内で空いていた数少ない倉庫つきの物件でした。
「この素材が好き」「この光を生かしたい」という感覚を大切にしながら、ガラス器をつくっているピーターさんは、家づくりにもその感性を反映させています。
「この古民家の梁がきれいだと思って、生かそうと考えました。どうすれば梁をより美しく鑑賞できるかを考え、既存の屋根を取り払い、屋根を1段上げて窓をあらたにつけ、光をとり込みました」
ピーターさんは建築様式においてもまた、日本独特の文化に惹かれたそう。それは家の中と外をはっきり分けないという考え方です。
「リビングの隣にあるギャラリーは、屋内だけど屋外のようなオープンな雰囲気にしたくて。増築した天井部分にも窓をつくり自然光が入るようにして、床も木材ではなくタイルにしました。リビングはガラス戸によって、縁側もすだれの開閉によって、屋外と屋内それぞれの雰囲気に変えられるようにしています。外と中がつながっているような、日本の間(あわい)の考え方が好きですね」
外と中を分けないという考えを顕著に表しているのが家の中を流れる川です。近くを流れる用水路から水を引き、ギャラリーから玄関を通り、そして庭の池に流れ着く。もともと隣接する倉庫を工房としていたため、騒音を水の流れで打ち消す目的もあったといいます。
現在建設中の敷地入口から玄関へのアプローチも、間の考えが生きています。屋根をつくりつつも、閉鎖的にならないよう隣家との間に壁はつくらず、木の引き戸を目線の高さで設置して開閉できるよう計画中です。
すでにあるものを組み合わせて、
新しいものをつくることのおもしろさ
古民家の中央にもともとあった仏間は、リビング&キッチンに改装しました。この地域は湿気が多くカビが生えやすいため、キッチンの戸棚の底は通気性のいい網にしたり、冷蔵庫は業務用のものを取り出しやすい高さに設置したり、シンクと作業場の高さを変えたり、ひとつひとつ自分たちの生活スタイルに即したつくりにDIYしたそうです。
「ゼロから家を建てることもできますが、すでにある古民家を活用して、必要なものを備えた家づくりをするのは、チャレンジングでおもしろい。私はそういう、すでにあるもののかけ合わせが好きなんですよね。富山は空き家がたくさんあって、壊してしまうのはもったいないですし」
細部まで生活を意識し、考え抜かれた家づくりにも思えますが「全部は完璧にできないと思っている」とピーターさん。住みながら、つくりながら、使いながら、現在進行形で暮らしを整えています。
心地良い家づくりとは、すなわち「どのような生活をしたいか」を突き詰めて考える行為です。それはおのずと、生活にまつわる物の選び方にも反映されています。つくり手でもあるピーターさんの視点は「置く場所があるかどうかで選んでいる」です。
「展示先で、各地の作家さんの器を買うことは多いですが『使ってみて良かったら揃えよう』と思って、大体ひとつずつしか買わないんですよね。あとから『もっと買えばよかった』と後悔することもあります。けれど、子どももいるし、物が増えやすく掃除も大変になるので、使う責任が果たせない物はなるべく買わないようにしています」