次世代への技術継承も意識した工房を新設
ピーターさんがこの地に移り住んだ当初は、自宅の倉庫と土間でガラス器の制作を行っていました。しかし、広さが足りないこと、そして自宅と工房が近すぎることを課題に感じるようになったそう。
「ガラス制作は共同作業なので、必ずひとりは手伝いに入ってもらいます。しかし以前の工房は狭かったから、手伝う人は自分の作品制作をする機会が少なく、すぐに辞めてしまっていました」
そんなときに、道を挟んだ向かいの古民家が空き家となったことを知り、工房として改装することを決意したピーターさん。2階の床を抜いて増築し、天井が高く開放的な空間へとデザインし改装しました。
工房を新設したのにはふたつの理由があります。ひとつは、自身の作品を制作するため。もうひとつは、ここで働く次世代への知識と技術の継承です。現在ピーターさんは、日本全国から集まる研修生にガラス制作を教えています。
新たな工房にはガラス溶解炉が複数あり、研修生はピーターさんの手伝いだけでなく、技術の指導を受け、習得した技術を生かして自身の作品制作を行うことが可能です。
「ガラス溶解炉をつくるとなると300〜400万円はかかるから、自分ひとりで工房をつくるのは難しい。一方で火を熾したら燃やし続けなければいけないから、ひとりで使うにはもったいない。ガラスは伝統的に人と協力してつくるもの。自由な作家の制作作業と、協力してものづくりを行う昔ながらの工場、両方のいいところをかけ合わせた場所をつくりたいと考えたんです」
15年で移住者が増え、
おもしろいカルチャーが育ってきた富山
住まい、そして工房を構えるこのエリアの魅力について「田畑があり、家と家の間に竹を縛った塀があるなど、人々が自らものをつくりながら暮らす、昔ながらの生活習慣が残っているところ」と話すピーターさん。
いまでは大工兼農家さんが、採れたての野菜を研修生の分までお裾分けしてくれたり、スイカやウリをピーターさん家の池に浸けて冷やしておいてくれるほど、近所の方との交流もあるそう。
そして富山に移り住んで約15年が経ったいま、新たな変化もピーターさんは感じているといいます。
「富山はまちのサイズもちょうどよく、最近ではおいしいワインやチーズなど、いろいろなものが手に入るようになってきました。近年はUターンやIターンで新しくお店を始める人も増え、新たなカルチャーが育ってきたと感じます」
工房からはヒップな音楽が流れ、黙々と、時に協力しながらガラス制作を行う人々。制作に疲れたら、工房脇に設けられたアウトドアチェアに座り風に乗って運ばれてくる緑の匂いに包まれながら、寛ぎ、語らいます。
中と外がシームレスにつながる古民家の自宅では、川のせせらぎや虫の音に耳をくすぐられながら日々の営みを行うピーターさん家族。周りの人と手を取り合いながら、ものづくりと向き合い、生活を慈しむ暮らしがここにはありました。
credit text:中森りほ photo:日野敦友