山のイラスト
製造中の〈高岡ラムネ〉
gourmet, lifestyle

型にはまらず、しなやかに。伝統を今につなげる
老舗和菓子屋〈大野屋〉大野悠さんの挑戦 | Page 2

series|とやまの居心地達人

〈高岡ラムネ〉で和菓子の
技術と文化を現代に伝えたい

「私としては、このラムネをきっかけに新しいものを提案していきたいっていう気持ちが強かったんですよね。当時はお店の売り上げもどんどん落ちてしまっている状況だったので、何か新しいことをやらなければという気持ちがありました。もうひとつには、お店に眠っている大量の和菓子の木型を生かせたらいいなとずっと思っていたんです」

インタビュー中の大野悠さん
大野屋では主に、商品企画やデザイン業務を担当する大野悠さん。アパレル業界を経て、家業である和菓子づくりの世界へ。

そんな話をしていると、あるとき大学時代の友人であり、プランニングディレクターの永田宙郷さんから「落雁の技法なら木型でラムネをつくれるらしいよ」という話を聞きます。

そこからふたりで試行錯誤を重ね、共同開発というかたちで2012年に完成した〈高岡ラムネ〉。ほどけるような軽い口どけに繊細な甘さ、ふくよかな味わいは、多くの人が子どものころに食べた駄菓子とは一線を画す、上質な大人のラムネ菓子といったところ。富山県産コシヒカリの米粉など素材にもこだわり、国産しょうが、柚子、梅といった和を感じるフレーバーは、ラムネとしても珍しいラインアップです。

〈高岡ラムネ〉の材料を木型に押し込む
〈高岡ラムネ〉の材料を木型に押し込み圧をかけて固め、「げんべら」という和菓子道具で叩き、ラムネを木型から「おこす」。
「げんべら」で木型を叩く様子
木型が外され成形されたラムネ

「現代版落雁という発想で、和菓子屋なりの素材使いをしたいと思って考えました。高岡から発信するプチギフトやお土産品みたいな感覚で、地元の方以外のお客様にもお買い求めいただけるような商品をつくろうというのがありました。開発していた時期はちょうど北陸新幹線の開業直前でもあったので、そのタイミングを見据えていた部分もありますね」

職人が木型を叩く、カンカンカンという軽快な音が響き渡る工房内。木型は落雁など、和三盆を使ってつくる菓子を中心に用いられます。落雁とラムネのつくり方は一見似ているものの、材料が異なるため、型に入れたあとの圧の強さ、力加減が変わります。開発当初は、以前から保管していた木型を使っていましたが、新たに高岡ラムネ専用に小ぶりの木型を制作したそうです。

厨房で働く2人の若い和菓子職人
20代の和菓子職人も活躍中。伝統と歴史を次世代へとつないでいくためには、若い担い手たちの存在が重要だ。

もうひとつの目的である菓子木型を活用することについては、木型職人の全国的な高齢化や後継者不足といった問題が背景にありました。和菓子道具をつくる人がいなければ、和菓子そのものも途絶えてしまいます。

その点で、このラムネがきっかけで実現できたことがあります。富山県南西部にある南砺市の井波というエリアは“井波彫刻”で有名な木彫のまち。そこにある〈Bed and Craft〉という宿が5周年を迎えるにあたり、高岡ラムネとのコラボレーション企画が立ち上がったのです。

完成したラムネを箱詰め作業中
木型からおこしたラムネは崩れやすいので、乾燥と冷却を終えたあとに箱詰めする。こちらもまた丁寧な手作業。

「井波の職人さんにラムネの木型をつくっていただいたんですけど、すごく繊細で素敵だったんですよね。またうれしいことに、このときの出会いがきっかけで、うちの別の木型もつくっていただけるようなご縁ができたんです。和菓子の素材は地元のものを選んで使っていますが、道具まで地元の職人さんが手がけたものを使わせていただけることにすごく感動しました。この先のことを考えると、ほかにもそういう職人さんがいるとありがたいなあと思います」

和菓子と洋服。それぞれに異なるものづくりではあるものの、素材への探究心やデザイン視点からのアプローチという点では、悠さん自身の考え方に通じる部分があり、前職での経験が随所に宿っています。

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