山のイラスト
浜田さんが手がけた〈善徳寺 杜人舎〉の館内
lifestyle

魚津の造船所を第2の拠点に。
地元とつながりながら第一線で活躍する
建築家・浜田晶則さん | Page 2

series|I’m Your Home. ~挑戦する君へ、先輩たちの言葉~

縁がつながり、自然と
富山と東京を往復する日々に

富山県魚津市出身の浜田晶則さん。商業施設や個人邸などの建築を手がけつつ、クリエイティブ集団〈チームラボ〉の建築部門〈チームラボアーキテクツ〉のメンバーとしても注目を集める建築家だ。そんな浜田さんの原風景となっているのが、祖父が営んでいた造船所からの眺めだという。

「魚津の海は波も荒いのですが、造船所を出てすぐの場所にある海岸には砂浜があって。ちょうど湾になっているところなので海と山の両方が見えるし、人がいなくて海もきれいなので、たまに泳いだりしていました。そこから見える夕焼けがすごくきれいなので、よく黄昏れていましたね」

夕焼けと夕焼け色に染まった魚津の海
造船所に面した浜辺からの夕景。(写真提供:AHA)

小学生時代は木の上に秘密基地をつくったり、早起きをして友だちと釣りに出かけたりと、わんぱく少年だった浜田さん。

また、富山県の「まちのかおプロジェクト」の一環でつくられた、魚津市の桃山運動公園にある世界的建築家ダニエル・リベスキンドによるモニュメントも思い出の場所。

「そこの展望台から富山湾が見えるんです。そこでも友だちとよく遊んでいました」

中学からは音楽に目覚め、ブラスバンド部に所属しつつ、バンドを結成して高校生バンドとして音楽フェスやコンテストの県大会に進出するなど、充実した日々を過ごしていたそう。

高校を卒業し、大学進学をきっかけに上京。そのときは不安はなかったのだろうか。

「音楽や文化が好きだったこともあって、東京に行くことしか考えていなかったですね。基本的には楽観主義者なので、不安はあまりなかったです。周りの人からは“富山の男は地元に戻ってくることが多い”と聞いていましたが、自分が戻るかどうかは当時考えていませんでした」

東京に出てきてよかったと感じたのは、多様な文化に触れられたこと。

「東京で出会った友人は、僕が全然知らないようなことを知っていて、文化的な知識量や経験がまったく違うなと思いました。いまはインターネットがあるからまた違うかもしれませんが、東京では文化に触れられる機会が圧倒的に増えました。海外の留学生も多くいましたし、多様な文化を学べたと思います」

インタビュー中の浜田さん

大学院卒業後に東京で建築デザイン事務所を立ち上げ、最初のプロジェクトとして取り組んだのが富山県の惣菜カフェだ。

「大学院を卒業するかしないかというときに同級生から話をもらって。特に就職活動もしていなかったので『じゃあ、それが終わったら何か考えようかな』と引き受けました。その頃からですね、富山と東京を行ったり来たりする生活が始まったのは」

何かしら富山県と関わりたいと漠然と思っていたところ、その後も知り合いなどから声がかかり、少しずつ富山県とのつながりが生まれていき、現在では富山に関する仕事を毎年1~2件ほど手がけている状態に。

「2014年に建築設計事務所を立ち上げ、その翌年には富山支社をつくりました。富山で営業活動をしているわけでもないのにお話をいただけるのは、富山県出身だということを公言しているからかもしれないですね」

計画的ではなかったものの、富山県との関わりを持ちたいという思いを持ち続けたことが、現在の状況につながっているのかもしれない。

そんな彼が富山県で手がけたプロジェクトのひとつが、550年の歴史を持つ南砺市の城端別院善徳寺の敷地内にある複合施設〈善徳寺 杜人舎(もりとしゃ)〉。“泊まれる民藝館”をコンセプトに、ホテルやカフェ、テレワークスペースも備えた複合施設だ。

〈善徳寺 杜人舎〉の客室内観
善徳寺は、民藝運動の父といわれる柳宗悦が滞在して『美の法門』を記した場所。柳の愛弟子である安川慶一が設計した研修道場を浜田さんが改修設計し、ホテルやカフェ、ショップなどの複合施設に。(写真提供:田中広告写真)
〈善徳寺 杜人舎〉館内に展示されているさまざまな民藝品
宿泊者には地元の伝統的な発酵保存食を主とした朝食が提供され、館内にはさまざまな民藝品も展示されるなど、富山の食や文化が感じられる場所となっている。(写真提供:田中広告写真)

「お話をいただいていから約4年とかなり長期的に関わらせていただいたので、思い入れもありますね。善徳寺は民藝の聖地のような場所で、民藝に関心のある方を中心に多くの方に訪れていただいています。こういった富山の文化や食が注目されてきているのを感じますね」

そんな浜田さんは、まさにいまも地元の魚津市で、とある大きなプロジェクトを進行させている最中だという。

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