魚津の造船所を第2の拠点に。
地元とつながりながら第一線で活躍する
建築家・浜田晶則さん | Page 3
series|I’m Your Home. ~挑戦する君へ、先輩たちの言葉~
富山をより良い社会にするために
現在、浜田さんが魚津市で進行させているのは、2025年4月に開幕する大阪・関西万博の会場に設置されるトイレ・休憩施設の壁に使用する、富山県や兵庫県淡路島、広島県で採取した土を材料とした外壁パネルの製作。土と、わらや自然素材の硬化剤などを混ぜ合わせて、大型の3Dプリンターを用いて出力するのだが、その作業所として祖父が遺した造船所が活躍しているのだ。
「最初はほかの場所で探したりもしていたんですけど、場所代だけでものすごい金額になってしまって。祖父の造船所を借りられたことは、まさに“HOMEがあってよかったこと”ですね」
富山のスタッフは3名おり、現地採用した人もいる。来春、万博のプロジェクトが落ち着いてからも、その場所を活用して研究や制作を続けていきたいと考えている。地元に戻るかどうかは深く考えていなかった浜田さんだが、東京と魚津を行き来する、現在のようなワークスタイルもいいなと感じているそうだ。
また魚津では、地元の造園会社と協働し〈NAPs〉というグループで、〈魚津総合公園 みらパーク〉のにぎわい創出事業も手がけている。魚津総合公園は遊園地〈ミラージュランド〉と100年以上の歴史を誇る〈魚津水族館〉を合わせた公園で、2019年よりNAPsがパートナー事業者となり、浜田さんはデザイン監修やイベントの企画などを行っている。
「徐々にいいかたちになってきていると思います。夢としては、魚津水族館をいつか建て替えることがあれば、何かしら関われたらいいなって。実は水族館って、お客さんが見ているところはほんの一部で、裏側は水を循環させるパイプだらけで、工場のようなんですよ。比較的、人工的な環境ではあると思うのですが、そのなかで何か新しいことに挑戦できないかなと考えたりしますね」
柔らかながらも一切のブレを感じさせない浜田さんの話しぶりには、自身のヴィジョンを体現することと、富山県をより良い場所にすることの両方を同時に実現させるために、常日頃からさまざまなことを考えているのがうかがえた。
そんな浜田さんの座右の銘は「さあ横になって食べよう」。この不思議なフレーズは、建築家であり人類学者でもあるバーナード・ルドルフスキーの本のタイトルから。
「現代では西洋の慣習やマナーに則って、座って行儀よく食事をするのが正しいとされていますよね。でも文化人類学的にひもといていくと、昔の貴族は寝ながらごはんを食べていたり、風呂に入りながらごはんを食べたりしていたんです。規律や現代の常識をちょっと疑って、動物的な感性で考えることが大事なんじゃないかと僕は思うんです」
最後に「浜田さんにとってのHOMEは?」と、あらためて質問してみた。
「やっぱりまだ実家もあるし、造船所もあることを考えると、魚津のエリアはホームっていう感じがしますよね。仕事柄、いろいろな土地に行きますけど、そういう風に感じるところはやっぱりないです。そういう意味では“帰ってきた感”があるし、その感覚が安定や安心につながっているのかなと思います」
人と自然と機械が共生する社会の構築をめざしているという浜田さん。富山県の豊かな自然、浜田さんが手がけた建築、そして地域の人たちが共生する社会が生まれる日も、そう遠くないかもしれない。
富山県魚津市出身。2012年、東京大学大学院修士課程修了。2014年に〈AHA 浜田晶則建築設計事務所〉設立。同年より〈teamLab Architects〉パートナーを務める。コンピュテーショナルデザインを用いた設計手法により建築とデジタルアートの設計を行い、人と自然と機械が共生する社会構築をめざす。主な作品として「綾瀬の基板工場」(2017)、「torinosu」(2020)など。現在は、大阪・関西万博のトイレ施設などのプロジェクトが進行中。
Web:I’m Your Home.
credit text:林みき photo:ただ