富山県から広い世界へ旅立っていく若者たちに、いつでもふるさとが待っている――そんなメッセージを伝える「I’m Your Home.」プロジェクト。富山県出身で、さまざまな分野の第一線で活躍する先輩たちが、一歩踏み出そうとする若者たちへエールを送るインタビューです。
進路を決められない高校生の成長を描く
『逃亡するガール』
富山県富山市出身の作家・山内マリコさん。デビュー作『ここは退屈迎えに来て』や、『アズミ・ハルコは行方不明』、『あのこは貴族』といった小説が映画化されていることもあり、ふだん読書をしない人でもタイトルを耳にしたことがあるかもしれない。
山内さんの最新作となる『逃亡するガール』は、「じゃあやっぱ大学受験する感じ? 県外に行くの?」と質問されても即答できない、進路や未来に対して具体的な展望を抱けない、富山に暮らす高校2年生の山岸美羽が主人公だ。
そんな美羽は、思いがけないかたちで出会った、知らない高校の制服を身にまとった浜野比奈と放課後を過ごすようになる。しかしふたりは行く先々で不条理に居場所を追われてしまう。そして共に時間を過ごすなかで、それぞれの実情が明らかになっていき……。
これまでほぼ自分と同世代のキャラクターを主人公とした小説を書くことが多かった山内さん。なぜ『逃亡するガール』では高校生を主人公にしたのかと訊ねてみると「私のなかで、大学生や高校生を主人公にする流れがここ2年くらい来ていて」という答えが返ってきた。
「1980年生まれの自分の世代を描いた『一心同体だった』を完成させられたことで、同年代の人物を書くことはやり切った感じがあったんです。コロナ禍に書き始めた『マリリン・トールド・ミー』は大学生が主人公。すると、現役の大学生が本を手に取ってくれた実感がありました。
自分も若い頃は、自分と同じ年齢の主人公を求めていました。私の根幹にある、女性を尊重するフェミニズム的なものの見方や考え方を、小説をとおして若い人たちに手渡して、いい養分にしてもらえたらという気持ちもあって。高校生に読んでもらいたいなぁというモチベーションで書きました」
また、2024年2月に同じ富山県出身である社会学者・東京大学名誉教授の上野千鶴子さんと、富山県民共生センターで対談を行ったことも山内さんとしては大きかったようだ。
「その対談をもとに1冊本にしましょうという話になり、中心になるテーマはおのずと、若年女性の都市部への流出傾向について、になりました。どういう本にしようか構想していたのと同時進行で、この『逃亡するガール』を書いていたこともあって、問題意識がかなり共通していますね。
もともと社会的な要素を小説のベースに盛り込むほうですが、『逃亡するガール』はもっとダイレクトに、いわゆる“消滅可能性自治体”の問題を反映したかたちで、主人公の美羽のキャラクターを造形しています」
美羽は、物語の冒頭では「勉強がんばって、成績を上げて、できるだけいい大学に行けたらいいなって、それだけ考えて生きていた。あたしに想像できる未来はそこまでだから」と語る、どこか宙ぶらりんな状態だ。一方、山内さん自身は大学進学をきっかけに県外へと出て、小説家になるという夢を叶えている。いったいどのようにして進路を決めたのだろう?