時代とともに変わる仏壇・仏具のスタイル
かつての日本では、多くの家で「仏間」に大きな仏壇が置かれ、さまざまな模様が施された仏具が所狭しと並べられていたのです。しかし現在では、生活スタイルや住宅の変化にともない、家具調の仏壇や小型の仏壇が主流になり、仏具もモダンでスッキリとしたものが人気になっています。
国内の金物仏具製造シェア9割を超える高岡市で仏具問屋〈ハシモト清〉を営む橋本卓尚さんは、そうした仏具業界の過渡期にあたる2009年、勤めていた電機メーカーから家業に戻ってきました。もともとは家業を継ぐつもりはなかったと語る橋本さんですが、家業に戻ってからは新商品の開発に力を入れるようになります。
「時代が変わっていくなかで、従来のまま仏具を売ってもダメだと思ったんです」
仏壇や墓を持たない家庭も増え、「手元供養」も一般的なものになりつつあるなかで、大切な遺骨を身近に置くことができる「ミニ骨壷」を開発。蓋を外すとぐい呑みかのように見えるそのシンプルでかわいらしいデザインは、先細りするばかりの仏具業界でヒット商品となり、新規の取引先も開拓できたそうです。
大量の仏具のデッドストックが
会社の倉庫に眠っていた
しかしそうした需要の変化に対応し、新たなスタイルの仏具を生み出す一方で、ある問題に橋本さんは頭を悩ませていました。それは売れ残った大量の仏具。〈ハシモト清〉本社屋の2階の倉庫には、もうほとんど売れる可能性のない仏具が大量に眠っていたのです。なかには40年前の初代の頃につくられた仏具が、当時の新聞紙に包まれたまま保管されていました。
そもそも仏具というのは種類が多岐にわたります。宗派や地域によっても違いがあるし、当然仏壇の大きさによっても変わってきます。さらに主に真鍮でつくられた仏具は超耐久商品です。買い替えることは稀。時代の流れで仏具のスタイルも変わっている今、かつてつくられた仏具が売れることはほとんどありません。
「浅草寺に置かれているような寺院向けの大きな仏具なんかもありました。そんなのは売れる可能性はほとんどありませんよね。本当は売りたいんですけど、10年、20年眠りっぱなしの仏具をずっと倉庫に置いていても仕方ないんです」
まず始めたのはデッドストックとなった仏具を廃棄して溶かし、原材料として地金に戻すこと。資源の再利用という観点から見ればそれだけでも意味のあることですが、ある日、橋本さんは1枚の写真を見て衝撃を受けます。
「高岡の商工会議所に所属している知り合いのデザイナーさんから1枚の写真を見せてもらったんです。そこには松を植えた仏具の香炉が写っていました。自分が今まで廃棄していた仏具が、とてもカッコいい植木鉢として活用されていたことが衝撃でした」
そのデザイナーは、高岡市で活動するグラフィックデザイナーのカイジュウインクさん。同級生の仏具の職人から「何か新しいものがつくれないか?」と相談を受け、そして訪れた工房で見つけた香炉を見て、植物を植えるアイデアを思いついたそうです。その写真を見た橋本さんは、会社の大量のデッドストックを生かせるのではないかと考え、カイジュウインクさんや職人さんと協力し、仏具の新たな魅力を伝えるプロジェクト〈#SilenceLAB〉を2020年に立ち上げました。