1年を通じて多種多様でおいしい魚が獲れる富山湾。四季折々の旬の魚を食べ逃さないための「富山のすしカレンダー」。毎月3つのすしネタを、すし作家・岡田大介さんの食べ頃ポイントとともにお届けしています。今回は富山湾に春の訪れを告げる、今がまさに旬のホタルイカ、サクラマス、アイナメをご紹介します。
3月のすしネタ①|ホタルイカ
食べ頃ポイント:定置網漁で漁獲。春の訪れを感じる富山の風物詩
富山湾の春の風物詩といえば、ホタルイカ漁。滑川市で多く水揚げされる、富山県のホタルイカはやっぱり特別だということを言わせてください。底びき網で一網打尽にして漁獲したホタルイカは、オス、メス、子どもに関わらず獲るため質にムラがあります。
しかし、富山で水揚げするホタルイカは身がパンパンで旨みたっぷりのメスのみを定置網漁で漁獲。しかも産卵を終えたメスだけが網に入るよう仕掛けるため、資源保護の観点からもホタルイカのことを考えているといえるでしょう。
オスや子どものホタルイカも十分おいしいのは間違いないのですが、食べ比べてみると富山のホタルイカのおいしさはきっとすぐにおわかりいただけるはずです。
胴体、耳(ヒレ)、腕(ゲソ)、内臓……イカには部位ごとに特徴的な食感と旨みがありますが、それらすべてを同時に食べられるのがホタルイカの魅力のひとつ。
しかも2、3匹同時食いなんてしたあかつきには、口の中がおいしさで溢れかえります。薬味や酢味噌などと食べるイメージがりますが、ほどよく塩茹でされたホタルイカに特別な味付けは不要。酢飯との相性も抜群で、すしにも適しています。ホタルイカと酢飯だけで、上質な料理のような味わいになります。
3月のすしネタ②|サクラマス
食べ頃ポイント:富山で古くから親しまれる、郷土寿司の代名詞!
サクラマスと川魚のヤマメは、実は同じ卵から生まれるということはご存じでしょうか? 簡単に説明すると、川で生まれたものが、そのまま川に残って生涯を過ごすのがヤマメ、一方、川を下り大海原に出て大きくなり、また川に戻ってくるのがサクラマスです。
鮮やかなオレンジ色の身が特徴的できれいなサクラマスですが、実は白身魚の部類に入ります。魚の白身、赤身が、筋肉中の色素たんぱく質であるミオグロビンの含有量によって区分されるためです。
肝心の味の面ですが、ほぼハズレのないおいしさといっていいでしょう。切る際、包丁に絶妙にまとわりつく上質な脂、口に入れた瞬間それが溶け出しうまみのインパクトが広がって、なおゆっくり長く続く余韻。酢飯と合わせた握りずしは、老若男女が唸る相性の良さです。
そして、忘れてはならないのが、富山県が誇る郷土寿司「ますずし(鱒寿司)」。昔、サクラマスの水揚げ量が多かったことから誕生し、さまざまなスタイルが生まれ、現代でもなお郷土寿司業界を牽引し続けています。
実は、食べた人の記憶に残るほどの印象的な魚というのは限られているもの。サクラマスは生涯記憶に残る魚にきっとなるはず! 出合ったら必ず食べていただきたい魚のひとつです。
3月のすしネタ③|アイナメ
食べ頃ポイント:栄養を蓄えた、魅惑的なおいしさと濃厚な旨み
「アイナメ」と聞いて魚の姿がパッと頭に浮かんだのなら、あなたはかなりの魚好きだと思います。
「今日、アイナメを買ってきたから、夕飯はアイナメ料理よ!」こんなフレーズはなかなか聞いたことがありませんが、それもそのはず。どこにでもいつでも置いてあるような魚ではなく、水揚げ漁が少なめの貴重な魚なのです。それゆえ、高級魚に位置づけされています。
茶褐色のアイナメが多くいるなかで、ひときわ目立つ黄色の個体がいたなら、それはオスの婚姻色です。縄張り意識が人一倍、いや魚一倍強く、産卵後のメスは責任をもって、最後まで卵の面倒をみます。
一般的な魚同様、各部位にヒレが付いていますが、アイナメのヒレはすべてが柔らかく、尖った硬いヒレがないので、触っても手にトゲが刺さることがなく安全です。
冬場にたっぷり栄養を蓄えたアイナメは、春が近づくにつれ、味がのり上質な白身魚として高値で取り引きされていきます。アイナメのすしは、とてもなめらかな舌触りで白い身からは想像できないほどの濃厚なうまみが特徴的。
一度食べればきっとあなたもアイナメファンになってしまう魅惑的で後を引くおいしさ。「大将、アイナメもう1貫握ってください!」となること間違いなしです。
1979年生まれ。すし職人歴26年。東京都文京区にてすし屋「酢飯屋(すめしや)」を経営する。現在は海、魚、すし、海藻にまつわる様々な情報を伝える「すし作家」として活動中。ディープなブログとSNSで発信し続け、料理人の新しい働き方を、体を張って日々探し続ける。著書に写真絵本『おすしやさんにいらっしゃい!生きものが食べものになるまで』(岩崎書店)など。Web|酢飯屋 Instagram|@okadadaisuke_sumeshiya
credit text:岡田大介 edit:花沢亜衣
参考文献:『すし本 海から上がって酢飯にのるまで』(大和書房)