四季折々の旬の魚を食べ逃さないための「富山のすしカレンダー」では、日本各地を飛び回るすし作家・岡田大介さんによる3つのすしネタを、食べ頃ポイントとともにお届けします。500種を超える、多種多様でおいしい魚が獲れる富山湾。今がまさに旬のタチウオ、カジキマグロ、コハダをおいしく味わうコツとは?
9月のすしネタ①|タチウオ
食べ頃ポイント:生でも炙っても、安定のおいしさ
まだまだ暑さの残る9月の富山、水温の上昇が各地で騒がれていますが、富山湾でも水温の変化がみられていて、比較的温かい水温を好むタチウオが活発に捕食し始めています。
これから冬にかけて、さまざまな生きものたちがたくさんのエサを食べ、脂がのり始めるわけですが、そのおいしく成長していく生きものを、ギョロリとした丸い目と鋭い牙で狙っているのがタチウオです。獰猛(どうもう)という言葉がぴったりな肉食性の魚で、釣り人も不注意で噛まれて怪我をしているほど。
タチウオは体全体にバランス良く脂がのるため、部位を問わず安定したおいしさがあるのが特徴です。醤油を弾くほど脂がのったタチウオは、銀色に輝く皮に細かく包丁を入れて銀皮造りにすれば、歯ごたえを楽しむことができ、炙れば噛み切りやすく、食べやすくなります。すしネタとしての質も高く、生で握ればとろりと滑らかに、炙りで握ればふっくら、ふわりとほぐれるように、口内を幸せにしてくれます。
9月のすしネタ②|カジキマグロ
食べ頃ポイント:昆布締めは探してでも食べるべし!
富山を訪れたら、探してでも食べるべき郷土料理が「サスの昆布締め」です。僕も初めて富山を訪れたときに、前のめり気味にお店の方にたずねました、「サスって何ですか?」と。カジキ類のことを富山ではサスと呼ぶそうで、主にシロカジキやバショウカジキが昆布締めにされていました。
さっぱりとしたバショウカジキをしっかり目に昆布締めすることで、身にたっぷりと昆布の旨みを移して味わい深い一品に。味の濃いシロカジキを絶妙な時間昆布締めにすれば100%以上のおいしさに。
なかには贅沢に、昆布、サス、昆布、サス、昆布、のように何重にもサンドされているものもあったりします。そんな風にして、富山では当たり前のように、つくられているサスの昆布締めですが、魚の状態を見極めて昆布締めする時間を微調整するため、料理人の勘と経験がものをいいます。
おすし屋さんに行ったらぜひ、「サスの昆布締めを握ってください!」と頼んでみてください。きっと絶妙な厚みに切って握ってくださることでしょう。カジキ類をはじめあらゆるものを昆布締めにしてしまう富山県。僕は「昆布締めの聖地」だと思っています。
9月のすしネタ③|コハダ
食べ頃ポイント:酢締めで引き出されるポテンシャル
夏から秋にかけて魚たちの活性が上がってくる富山湾。おすし屋さんで見かけるコハダは、主にプランクトンをエサにして大きく育つ出世魚で標準和名は「コノシロ」と呼ばれています。おすしで食べることが圧倒的に多い魚のひとつであり、コハダのすしには根強いファンがいて、すしネタとして長年、重要な位置に君臨し続けています。
コハダのサイズや脂ののり具合から、塩を当てる時間と酢に漬ける時間を加減して締めることでコハダの旨みに何層もの奥行きが生まれます。さらに、酸の効果で小骨が柔らかくなり細かな小骨など、すべてが一切気にならないほどの舌触りを実現します。
酢締めされたコハダと酢飯を一緒に噛むごとに感じるマリアージュ。酸っぱいもの同士を合わせているのに、どうしてこんなに酢飯と合うのだろうか。お米の甘みや旨みも加わることで、コハダの握りずしは立派なメインディッシュになりうるポテンシャルを秘めています。
1979年生まれ。すし職人歴27年。東京都文京区にてすし屋「酢飯屋(すめしや)」を経営する。現在は海、魚、すし、海藻にまつわる様々な情報を伝える「すし作家」として活動中。ディープなブログとSNSで発信し続け、料理人の新しい働き方を、体を張って日々探し続ける。著書に『すし本 海から上がって酢飯にのるまで』(大和書房)など。Web|酢飯屋 Instagram|@okadadaisuke_sumeshiya
credit text:岡田大介 edit:花沢亜衣
参考文献:『すし本 海から上がって酢飯にのるまで』(大和書房)