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富山の10月の寿司ネタ・フクラギ、カンパチ、アオリイカの3貫
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【10月|富山のすしネタ】
深まる秋でおいしくなる富山湾。
フクラギ、カンパチ、アオリイカ。

series|富山のすしカレンダー

四季折々の旬の魚を食べ逃さないための「富山のすしカレンダー」では、日本各地を飛び回るすし作家・岡田大介さんによる、3つのすしネタを食べ頃ポイントとともにお届けします。多種多様でおいしい魚がとれる富山湾。今がまさに旬のフクラギ、カンパチ、アオリイカをご紹介します。

10月のすしネタ①|フクラギ

フクラギの握り

食べ頃ポイント:未熟の良さってのもあるんだ

フクラギと聞いても、富山県民以外の方にはあまり聞き覚えがないのではないでしょうか? 実は、ブリの呼び名のひとつです。ブリは幼魚から大きくなるごとに名前が変わる出世魚だということは、ご存知の方も多いかと思いますが、富山県ではブリの成長に伴って「コヅクラ」「フクラギ」「ガンド」「ブリ」というように呼び方が変わります。厳密には、どのサイズでもブリはブリなのですが、それぞれに特徴が異なるため、呼び分けされるようになったのでしょう。

フクラギと呼ぶのは、体長が30〜40センチほどで、体重が1キロほどのものになります。ブリと呼ばれるまでの4段階の中の2番目にあたります。脂がのった冬の大きなブリまではまだまだ成長しきれておらず、そのためさっぱりとした筋肉質な身が特徴です。

人によっては物足りないといわれてしまうこともありますが、富山湾のフクラギは個体によっては驚くほど味が濃く、ブリの脂の旨みとはまた違った身のおいしさを感じることができます。

むしろ、ブリの旨みは、このさっぱりとした身にこそ感じられるのではないかと思えるほどです。 当たりはずれで魚を評価するのは正当ではないのですが、あからさまにおいしいフクラギを口にすると、思わず感動の声が出てしまいますよ。

10月のすしネタ②|カンパチ

カンパチの握り

食べ頃ポイント:ブリ派? カンパチ派? 両方派?

残暑も落ち着いた10月の富山湾では、小魚たちがだんだんと肥え始め、その群れを狙った大型魚たちも活発になります。ブリのサイズになる前のフクラギやガンドなどに混ざって漁獲されるのがカンパチです。

ブリとカンパチを同時に見たとき、もしパッと見分けられたのなら、あなたは相当、魚に詳しいはずです。見た目の雰囲気、体型がそっくりなのです。ただ、食べてみると、身の質はまったく違います。水揚げ直後でこそ、どちらも肉厚で弾力のある身をしていますが、時間が経過するとその違いは明らかに。先に柔らかくなり、脂がまわりはじめ身が白くなるのがブリです。一方のカンパチは、しばらくのあいだ透明感を保った肉質のままで、ブリと同じような厚みのお刺身を食べると、アゴが疲れるほどいい意味で筋肉質です。

カンパチはブリよりも圧倒的に鮮度が持つので、血合いの赤色も長く保たれて、ゆっくりと時間をかけて熟成させることができます。ブリとカンパチを同時に食べられるこの時期、ぜひその違いを富山のおすし屋さんで確かめてみてください。

10月のすしネタ③|アオリイカ

アオリイカの握り

食べ頃ポイント:未来への活力になる、パワーフード

全国的にも高級イカとして位置づけされているアオリイカ。この透明感のある白い身のどこにこんな旨みが詰まっているのだろうと不思議に思えるほど、見た目では想像できないパンチ力のあるおいしさが多くの人々を魅了し続けている理由だと思います。

生でも、加熱しても味わえる濃厚なイカの旨みと、程よい噛みごたえのある肉厚な身が人気で、すしとの相性は抜群です。

アオリイカの握りずしは、素材本来の甘さを引き出すために最低限の塩加減で、口の中に入れてからは、目を瞑って味わうことを推奨します。自身の五感を研ぎ澄まし、アオリイカのすしと向き合う数十秒間。幸せで、贅沢な咀嚼時間のなかで、きっと食への感謝の深みが増し、食べている自分へのご褒美がしっかりと未来への活力へと変わっていくはずです。アオリイカのおすしはそんな見えない力を秘めたスーパーパワーフードだと思っています。

岡田大介さん
Profile 岡田大介

1979年生まれ。すし職人歴27年。東京都文京区にてすし屋「酢飯屋(すめしや)」を経営する。現在は海、魚、すし、海藻にまつわる様々な情報を伝える「すし作家」として活動中。ディープなブログとSNSで発信し続け、料理人の新しい働き方を、体を張って日々探し続ける。著書に『すし本 海から上がって酢飯にのるまで』(大和書房)など。Web|酢飯屋 Instagram|@okadadaisuke_sumeshiya

credit text:岡田大介 edit:花沢亜衣 
参考文献:『すし本 海から上がって酢飯にのるまで』(大和書房)

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