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【11月|富山のすしネタ】
旬の富山湾の恵みを味わう。
マサバ、アカカマス、ベニズワイガニ。

series|富山のすしカレンダー

日本海の「天然のいけす」と呼ばれる海の幸の宝庫、富山湾。標高3000メートル級の北アルプス立山連峰の雪解け水などが豊富な湧水となり、水深1000メートルの海底へ注ぎこむ、山と海が近い特別な地形により、生息する魚も多種多様です。

一年を通して世の食いしん坊たちを惹きつけてやまない、きときと(新鮮)な魚たちに彩られる、富山のすしはやっぱり格別。四季折々の旬を食べ逃さないための「富山のすしカレンダー」では、日本各地を飛び回るすし作家・岡田大介さんによる、よりおいしく味わうための季節のすしネタ3つの食べ頃ポイントをお届けします。

冷たい日本海の寒さから身を守るため、脂肪をぎゅっと蓄えた魚が獲れる11月。今がまさに食べ頃! マサバ、アカカマス、ベニズワイガニをご紹介します。

11月のすしネタ①|マサバ

マサバの握り

食べ頃ポイント:マサバはなんだかんだシメサバが美味!

11月頃になって富山湾に入ってくるマサバの群れ。これから本格化する富山の冬の寒さに備えてしっかりとエサを食べ、脂を溜め込み始めています。

マサバに求められる旨みといえば、やっぱり上質な脂。つい数週間前までは、「脂ののりがもう一歩だね」なんて言われていたマサバもいよいよ旬を迎えます。多くの方の口の中に運ばれた途端に笑顔を生んでくれることが、その魚の旬の本領発揮であり、魅力でもあります。

鮮度のいいマサバは、生で刺身、塩と酢で絶妙に締めたシメサバの握りずしなど、楽しみ方もいろいろ。よく「好きなお魚はなんですか?」というご質問をいただくのですが、どれも好きでなかなか答えられません。見た目が好き? 釣るのが好き? 味が好き? それによっても異なるし、どうしてもひとつに絞れと言われたら……僕はなんだかんだやっぱり「マサバが一番好き」と答えています。特にシメサバのすしは格別。サバそのものも十分おいしいはずなのに、塩梅と時間でそれ以上の味わいになるところも大好きです。

富山湾では堤防からでも良型のマサバが釣れます。群れに当たれば、釣り初心者の方でも楽しめるほど簡単。マサバは釣り上げた後が肝心です。おいしくいただくためにも、残酷と思わずに、締めて、血抜きを。可能であれば神経締めまでして内臓を取り除いておくと数日間長く、身質もいい状態で保管できます。

11月のすしネタ②|アカカマス

アカカマスの握り

食べ頃ポイント:大衆的上白身といえばアカカマス。

立山連峰から流れ込む川からの栄養が、海の生きものたちをおいしく成長させてくれる富山湾。そうして育った小魚を、尖った牙と突き出した口で器用に捕食しながら、秋に大きくなるのがアカカマスです。小さな頃はその形状の細さから鉛筆やろうそくなどと形容されますが、11月の富山で獲れるアカカマスは、あからさまに太く、丸々育っていて鉛筆でもろうそくでもない様子。

まな板に置くと、捌く前から想像できてしまうほどのたっぷりの脂。ひとたび、包丁の刃を入れたなら、バターをナイフで切ったときのようなコッテリとした白い脂が包丁にまとわりついてきます。

薄いながらもしっかりとした皮は、人間の歯で噛み切るのは難しいのでサッと炙って。皮と身の間にある濃厚な旨み脂をジュワジュワと出しながら酢飯と合わせることで、ワンランク上の握りずしへと昇華します。腹側だけでなく、背中側まで全体的に脂がのったカマスは、醤油を弾くほど。小皿の中に残っている醤油を脂で汚さないために、魚側に醤油をつけるのではなく、酢飯側に軽く醤油を染み込ませて食べるのがコツです。
この時期のアカカマスは、個人的には上白身(身質や味が良く、高品質な状態を長く保てるような白身魚)的位置付けと思っています。歯がかなり鋭い魚なので、釣り上げたとき、捌くときなどは油断禁物です。

11月のすしネタ③|ベニズワイガニ

ベニズワイガニの握り

食べ頃ポイント:まるで旨汁だくだくのカニスープ!?

「カニは茹でると赤くなる!?」そう思われがちですが、実は、茹でる前から赤色が強いのがベニズワイガニです。富山湾ならではの深海の世界で、ズワイガニよりもさらに深い場所に生息しています。
太陽の光には、紫、藍、青、緑、黄、橙、赤の7色があります。この光が海に差した際、海中で最初に吸収される色が赤です。地上では目立って見える赤は、海の中では見えにくい色。深くなるほどにどんどん見えにくくなります。捕食者から見つからないようにするため、深海には赤い生き物が多いと言われています。ズワイガニよりも深くに生息しているベニズワイガニのほうが赤い理由に納得できますよね。

さて、味はどうなのか? カニ特有の香りと甘みもしっかりあって、とってもジューシー。すしにするならその旨みたっぷりのカニ汁を酢飯にじゅわ〜っと染み込ませて、箸では到底持ち上げられないほど汁だく状態になった、ベニズワイガニの握りずしをぜひ富山でご堪能ください!

岡田大介さん
Profile 岡田大介

1979年生まれ。すし職人歴26年。東京都文京区にてすし屋「酢飯屋(すめしや)」を経営する。現在は海、魚、すし、海藻にまつわるさまざまな情報を伝える「すし作家」として活動中。ディープなブログとSNSで発信し続け、料理人の新しい働き方を、体を張って日々探し続ける。著書に写真絵本『おすしやさんにいらっしゃい!生きものが食べものになるまで』(岩崎書店)など。Web|酢飯屋 Instagram|@okadadaisuke_sumeshiya

credit text:岡田大介 edit:花沢亜衣 
参考文献:『すし本 海から上がって酢飯にのるまで』(大和書房)

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