日本海の「天然のいけす」と呼ばれる海の幸の宝庫、富山湾。四季折々の旬を食べ逃さないための「富山のすしカレンダー」では、日本各地を飛び回るすし作家・岡田大介さんによる、3つのすしネタを食べ頃ポイントとともにお届けします。気温が一気に下がり、いよいよ冬本番! これからの季節にチェックしておきたい12月のすしネタ、ウマヅラハギ、メジマグロ、ガメエビをご紹介します。
12月のすしネタ①|ウマヅラハギ
食べ頃ポイント:カワハギと比較するのは、ナンセンス
馬よりも先に地球上に存在していたかもしれないのに、馬の顔に似ているからという理由で人間によって名付けられた「馬面(うまづら)はぎ」。カワハギの仲間なので、体のかたちは特有の長円形で、角もあり、小さな口が特徴。カワハギ同様、肝の濃厚なおいしさとともに身を楽しむ食べ方が主流です。肝の融点が人間の口の中の温度とほぼ同じの37℃なので、口の中でとろりとトロけて旨みが広がります。
カワハギのおいしさを知る方が、時にウマヅラハギを蔑んで表現したりすることがありますが、実はカワハギも通年でおいしいわけではなく、他の魚同様、産卵後には身が痩せ、肝の少ない時期があります。逆に考えると、ウマヅラハギにもベストパフォーマンスで勝負のできる時期が存在するわけです。それがまさに今!
肝の強烈な旨みを食べる前に、まずは何も付けずに目を瞑って身の味をたしかめて。そして、いよいよ肝醤油に絡めていただく至福の時間。刻んだネギ少々と一緒にすしにして食べようものならメインディッシュを張れるほどの満足度の高い一品となります。
富山湾では、12月からがウマヅラハギのおいしさの最盛期。ぜひ、旬の時期を狙って食べてみてくださいね!
12月のすしネタ②|メジマグロ
食べ頃ポイント:あなどるな! 成魚になれば「クロマグロ」
よく耳にするメジマグロですが、メジマグロという名前のマグロがいるわけでありません。体長が100センチメートル前後、体重が20キログラム程度で、3歳以下のクロマグロの呼び名として「メジ」と呼ばれています。
20キログラムとはいえ、クロマグロからするとまだまだ若い時期。身の脂は少なめですが、柔らかくさっぱりしている中にもクロマグロらしい旨みもしっかりあり赤身が好きな方には人気のすしネタのひとつです。
富山湾では、マグロまで獲れるのか!? と驚く方も多いかもしれません。魚種が豊富な日本各地の海ですが、青魚、白身魚、エビカニ、イカ、タコ、貝類だけでなく、赤身まで獲れてしまうのが富山湾。いつ富山に行ってもおいしい「すし」がそろっている所以です。
クロマグロは、絶滅危惧種に指定されているため、昨今の漁獲制限についての問題や未来のクロマグロについての話題など、人々の関心も高まりあちらこちらで見聞きすることが多いと思いますが、まだまだ私たちはマグロのことを全然わかっていないのが実状です。ただ、食べておいしいことはみなさんもご存じですよね。その前後にまつわるマグロ事情までも意識していけるといいですね!
12月のすしネタ③|ガメエビ
食べ頃ポイント:見た目とのギャップで芽生える、甘い恋
赤色の鮮やかな見た目から魅了される甘エビ(標準和名:ホッコクアカエビ)とは違い、茶色くくすんでいて地味な印象なのがガメエビ(標準和名:クロザコエビ)。見た目だけでなく、地方名もさまざまで、日本語で聞くとザコというのは、良い響きの通称ではないですが、そもそもの「クロザコエビ」のザコも雑魚ではなくジャコが訛ったものなのだそう。そんな名前や見た目とのギャップに驚かされるのが、濃厚で甘い旨み。
個人差が大前提ですが、甘エビよりガメエビのほうが甘く感じるという方が多い傾向にあります。一見かたそうな頭や殻も、揚げたり焼いたりすることで食べられるのでエビの2大特徴である、甲殻類の香ばしさと、生の身のねっとりとした甘さをどちらも楽しむことができるのがガメエビなのです。
ただ、鮮度落ちが非常に早いため現代のコールドチェーンをもってしても、まだまだ各地で楽しめるような一般的なエビではありません。寒い時期に富山に来たのなら、一度は食べていただきたいすしネタのひとつです!
1979年生まれ。すし職人歴26年。東京都文京区にてすし屋「酢飯屋(すめしや)」を経営する。現在は海、魚、すし、海藻にまつわる様々な情報を伝える「すし作家」として活動中。ディープなブログとSNSで発信し続け、料理人の新しい働き方を、体を張って日々探し続ける。著書に写真絵本『おすしやさんにいらっしゃい!生きものが食べものになるまで』(岩崎書店)など。Web|酢飯屋 Instagram|@okadadaisuke_sumeshiya
credit text:岡田大介 edit:花沢亜衣
参考文献:『すし本 海から上がって酢飯にのるまで』(大和書房)