四季折々の旬の魚を食べ逃さないための「富山のすしカレンダー」では、日本各地を飛び回るすし作家・岡田大介さんによる、3つのすしネタを食べ頃ポイントとともにお届けします。山と海が近いダイナミックな地形により生息する魚も多種多様な富山湾。冬こそ食べたい! これからの季節にぴったりな1月のすしネタ、ブリ、マダラ、ヤリイカをご紹介します。
1月のすしネタ①|ブリ
食べ頃ポイント:富山のすしネタの大本命。呼び名が変わってもブリはブリ!
日本各地で水揚げされていますが、富山で冬の味覚を代表する魚といえば、ブリ。養殖マグロの価格が天然マグロの価格を追い抜き始めた昨今、各地の養殖ブリは年々進化を続けていますが、いくら進化しようとも全く敵わないのが富山の天然ブリです。脂のりが抜群で、どうしてこんなにも味が濃いのかと驚くほど。
サイズによって各地で呼び名が異なる出世魚としても有名で、富山では、「ツバイソ(コヅクラ)」→「フクラギ」→「ガンド」→「ブリ」の順に呼び名が変わります。しかし、どんなに小さくても大きくても、標準和名でブリはブリなんです。
僕自身、日本各地で一番多く釣り比べ、食べ比べしている魚のひとつがブリです。9月のある日、僕は富山湾で小さめの「フクラギ」(体長30〜40センチメートル、体重500〜1000グラム程度のブリの幼魚)を釣りました。いつもなら、「大きくなったらまた会おうな!」なんて、調子にのった言葉とともにリリースする大きさではありましたが、その日はふと、富山湾のこのサイズの小さいブリも食べておくべきだと思い、持ち帰ることにしました。その直感は大当たり。捌きながらでもわかるほど上質な身で、こんな小さなサイズでもしっかりときめ細かな脂があり、そのおいしさは格別。個体差はあるにせよ、富山のブリのさらなる可能性を感じる一匹でした。
1月のすしネタ②|マダラ
食べ頃ポイント:冬の風物詩といえば、まだら模様と白子
マダラといえば、寒くなると食べたくなる鍋の定番魚や、ソテーやフライのイメージをお持ちの方が多いようですが、すしも忘れてはいけません。まだら模様の語源にもなっている特徴的な体の模様をひとたび剥ぎ取れば、きれいな白身が顔を出します。独特の香りをほのかにまとった鮮度の良いマダラは、酢飯を噛むのを忘れてしまうほど。とろりとした滑らかな質感と旨みが舌の上で広がります。
富山といえば、昆布締めの聖地でもありますが、「マダラの昆布締め」は昆布締めのお手本のようなもの。比較的水分が多めのマダラから程よく水分を吸い、昆布の旨みと塩分で絶妙に整った昆布締めは、後を引くおいしさです。
そして、忘れてならないのは、マダラの精巣「白子」です。 多くの魚種には白子が存在するわけですが、一般的に「白子」といえば、マダラの白子のことを指します。繁殖期のこの時期、おなかがパンパンに膨れるほど詰まった白子は、栄養がたっぷりと行き渡り、旨みが凝縮されている分、身よりも圧倒的に高い値がつきます。白子はもちろん、富山を訪れた際には、マダラの身のおすしもぜひ楽しんでくださいね!
1月のすしネタ③|ヤリイカ
食べ頃ポイント:食感、味、見た目のバランス抜群! われこそが冬イカ様だ。
一年を通してさまざまな種類のイカが水揚げされる富山湾で、冬を代表するイカがヤリイカです。イカに限った話ではありませんが、富山湾の海鮮は何の調理もせずそのまま食べるだけでも、どうしてこんなにおいしいのでしょうか。ヤリイカの特徴といえば、コリっとした歯ごたえと、噛めば噛むほど口の中に広がる甘み。酢飯と一緒にすしにして食べることでその甘さがさらに引き立ち、イカ好きをひとくちで笑顔にしてしまうほどのインパクトがあります。
もし機会があれば、ヤリイカの「イカの耳」と呼ばれるヒレの部分や、ゲソと呼ばれる腕の部分もすしにしてもらい、食感の違いを楽しんでみてください。お店によっては口や漏斗(海水や墨を吐き出す部位)を食べさせてくれるところもあります。
陸からも海からも釣れるため釣りのターゲットとしても大人気で、このシーズンになると富山のあちらこちらでイカ狙いの釣り人を見かけます。釣り上げてから激しく変化する体色の美しさに誰しも目を奪われると思いますよ。
1979年生まれ。すし職人歴26年。東京都文京区にてすし屋「酢飯屋(すめしや)」を経営する。現在は海、魚、すし、海藻にまつわる様々な情報を伝える「すし作家」として活動中。ディープなブログとSNSで発信し続け、料理人の新しい働き方を、体を張って日々探し続ける。著書に写真絵本『おすしやさんにいらっしゃい!生きものが食べものになるまで』(岩崎書店)など。Web|酢飯屋 Instagram|@okadadaisuke_sumeshiya
credit text:岡田大介 edit:花沢亜衣
参考文献:『すし本 海から上がって酢飯にのるまで』(大和書房)