「美しいアウトドアブランド」をつくるふたりの出会い
「伝統工芸×アウトドア」をコンセプトに、さまざまなアウトドアギアを生み出している〈artisan933〉。高岡の伝統工芸の技で着色したシェラカップや鉄製のペグを模した漆塗りのお箸など、ユニークなプロダクトを生み出している注目のブランドです。
今回、向かった先は富山県南砺市利賀村にあるキャンプ場〈TOGA ART CAMPGROUND〉。〈artisan933〉はキャンプ場の企画開発も手がけており、2022年にオープンしたキャンプ場です。
国道471号に入ると、のどかな田園地帯から豊かな緑にあふれた渓谷へと景色が変わっていきます。つづら折りの道路を登っていくと、だんだんと標高は高くなっていき、先ほどまで視線の横を流れていた庄川もはるか下に。周りを見回せば、これぞ“渓谷”という景色が広がります。
果たしてこの先に「村」があるのか少し心配にもなりますが、山道に入ってから30分ほどで利賀村の集落に到着。そこからもう少し車を走らせた百瀬川沿いにようやく〈TOGA ART CAMPGROUND〉が見えてきました。
出迎えてくれたのは〈artisan933〉取締役部長・國本耕太郎さん。國本さんは1909年創業の高岡市の老舗漆器問屋〈漆器くにもと〉の4代目でもあります。さらにクラフト、食、アート、デザインなどさまざまな分野を横断する高岡の秋の祭典『高岡クラフト市場街』の実行委員長も務めています。
問屋として多くの職人さんとのつながりがあり、さらに高岡のまちの活性化にも尽力する國本さんが〈artisan933〉を立ち上げることになったきっかけは、ある日知り合いから「おもしろいやつがいる」と、ひとりの男性を紹介されたことでした。
その人物が〈artisan933〉の現社長である木原彰夫さん。國本さんと同じ高岡市出身の木原さんは東京を拠点にしたアウトドアブランドで働いた後、2015年に独立。利賀村に拠点を構える〈劇団SCOT〉の演劇祭のプロデュース事業に関わるなど、故郷への貢献をひとつの柱とし自らの事業を展開していました。そうして地元の富山との接点が増えていくなかで高岡の伝統工芸の窮状を知り、その状況の改善に寄与できるよう職人の技術を生かした「美しさにこだわったアウトドアブランド」の構想が生まれたそうです。それを具体的にどう動かしていくか考えている時期に、國本さんと知り合いました。國本さんは木原さんのアイデアに対して「おもしろそうだ」と感じたそうです。
「自分はアウトドアが大好きですし、“モノオタク”でもあるんです。そういった意味でも、アウトドアギアを自分がこれまで培ってきた職人さんの人脈を使って生み出せるということにワクワクしたのを覚えています。木原は伝統工芸については当時あまり詳しくなかったので、それからいろいろな工房を私が案内するようになりました」