アウトドアライフのなかで生きる伝統工芸のかたち
さまざまな職人さんたちの工房を訪ねるなかで、木原さんが特に惹かれたのが、銅、真鍮への着色を専門とし高岡を代表する伝統工芸士である〈momentum factory Orii〉の折井宏司さんでした。
金属をさまざまな食品や薬品で反応させ、あらゆる色に変化させる折井さん独自の着色技法に感銘を受けた木原さんは、〈artisan933〉の第1弾商品に折井さんの技術を生かしたアイテムをつくろうと決意します。そして試行錯誤を重ねて生まれたのが「Orii color magic brass cup」。美しい塗装を施した真鍮のシェラカップです。
「着色といっていますが正確には塗装ではなく、銅や真鍮が持つ腐食性を利用し薬品や熱をコントロールして、いろいろな模様や色をつくり出しています。このシェラカップでは『糠焼き』といって、カップに糠味噌を塗り熱を加える方法を採用しています。そうすると表面に独特な模様が浮かび上がります。その後、薬品などを使いさまざまな色に発色させているんです」
次に手がけたのが、鉄のペグのように見えるお箸「PEG O’HASHI」。何も知らずに見ると、本物の鉄と勘違いしてしまうほど。このようなラインナップに〈artisan933〉の遊び心を感じます。
「PEG O’HASHI」では “ペグっぽさ”の核となる鉄の質感を表現するため、漆塗りの技術である「蒔地」が使われています。
「ペグの形をした木地に漆を薄く塗り、そこに乾漆粉をパラパラと蒔いて、さらに漆を塗ります。そうすると鉄っぽいザラザラとした質感が生まれるんです。ペグでご飯を食べている奴がいる! と驚かれるぐらいに本物の鉄の質感にこだわりました」
木地は鋳物用の木型を製作する職人さんが3Dモデリングマシンで削り出したもの。「PEG O’HASHI」は現代と伝統のものづくり技術が融合したアイテムでもあるのです。
ほかにも、高岡漆器と山中漆器の技術をかけ合わせて生み出されたビール缶カバー「350 CARVING KOOZY」や、富山の伝統工芸品である五箇山和紙の若き職人と共同開発したLEDランタンシェード「ORIHOSHI~おりほし~」など、アウトドアと富山の伝統工芸が見事に融合したアイテムが揃っています。
とかく機能性ばかりに注目がいきがちなアウトドアギアのなかで、〈aritisan933〉はブランド立ち上げ時の「美しいアウトドアブランドをつくる」という思いから、一切ブレないものづくりを続けてきました。アウトドアと伝統工芸の調和が素晴らしい商品のアイデアは、どのように生まれているのでしょうか。
「まずは工房や職人さんを私と木原でたくさん回り、頭のなかにどんな技術が地域にあるのかをインプットします。そうすると普段の雑談の間に、ふとアイデアが生まれてくるんです。例えば食事中に、『ナイフつくったらどうかな?』みたいな感じで。そうして生まれたアイデアを職人さんに投げてみて、トライ&エラーでかたちにしていきます。やっぱり一番は僕たち自身が使いたいと思えるかどうか。突拍子もないものをつくるよりも、自分たちの日常やアウトドアライフのなかで出てきたアイデアを生かすのが一番いいと思っています」