広がっていく〈artisan933〉の取り組み
アイテムのラインナップが増えていく過程で、2019年10月に〈aritisan933〉は法人化。今ではアウトドアギアだけでなく、先述の通り〈TOGA ART CAMPGROUND〉の運営など地域活性事業にも取り組んでいます。
「昨年から我々が中心となって『sounds of silence』という音楽フェスを〈TOGA ART GROUND〉で開催しています。“静かな山の音楽祭”と銘打って、山々に囲まれたこの風景に合うミュージシャンを招いた、静かな音を楽しむ音楽フェスです」
今年からは、〈TOGA ART CAMPGROUND〉に隣接する〈利賀国際キャンプ場〉の運営も請け負うようになり「商品開発よりもキャンプ場やイベントの運営で忙しくなってきた」と語る國本さん。しかし、アウトドアブランドとしての思いは当然捨てていません。新たなプロダクトも構想中。
「高岡漆器の大きな特徴である、貝で装飾する『螺鈿(らでん)』を駆使したシェラカップや、ペグのお箸と同じ発想でダッチオーブンの形をしたお椀の開発をしているところです。あとはお皿やトレイなんかもつくりたいなと。まずはテーブルウェアを充実させていきたいと思っているんです」
模索し続ける未来への可能性
「デジタルな社会が進めば進むほど、その対極にあるアウトドアの価値は高まっていくのではないか。そこに僕は伝統工芸が生き残っていく活路を感じています」
國本さんの根底には、老舗漆器問屋の跡取りとして小さい頃から近くで見てきた伝統工芸、そして職人への思いがあります。
「私が子どもの頃は伝統工芸の世界は景気がよかった。でも、自分が家業に戻ってきたときには様子は一変していました。今、伝統産業は日本全国どこも苦しいと思いますが、だからこそ発信の仕方や技術の生かし方を考えていかなければなりません。そのひとつとして『アウトドア』に可能性があると思っています。職人さんって技術は持っているんですけど、それをどうアウトプットしたらいいかわからない人が多い。その人たちを助けられるよう、〈artisan933〉の企画力と販売力をもっと上げて、職人さんとともに仕事を続けていきたいと思っています」
職人の高齢化や後継者不足、そして生活様式の変化によるニーズの変化など、現在、伝統産業が対峙している壁はたくさんあります。
それでも、アウトドアブランドで長年働いてきた経験とそこで培ってきたセンスを持つ木原さんと、伝統工芸への深い見識と地域の職人との広大なネットワークを持つ國本さん。このふたりから生まれた〈artisan933〉が伝統工芸の新たなかたちをつくり、地域のシンボルとなっていく。そんな未来が訪れるかもしれません。
access:北陸自動車道 砺波IC、北陸自動車道 富山IC、東海北陸自動車道 五箇山ICより、車でそれぞれ約1時間
Web:TOGA ART CAMPGROUND
credit text:平木理平 photo:朝岡英輔