山のイラスト
〈大野屋〉の外観
gourmet, lifestyle

型にはまらず、しなやかに。伝統を今につなげる
老舗和菓子屋〈大野屋〉大野悠さんの挑戦 | Page 3

series|とやまの居心地達人

「老舗」にとらわれすぎず、のびのびと

東京から戻り家業に専念するようになってからは、生まれ育った地元と自然に向き合えるようになったという悠さん。それまで意識していなかったことや当たり前のように感じていたことが、高岡ならではの良さであり魅力であると再確認する場面もありました。日常の暮らしのなかでは、こんなことも。

「スーパーのお刺身のクオリティがものすごく高くて、おいしいんです。こだわりの調味料や食材が豊富に揃う〈フレッシュ佐武〉というご当地スーパーは、高岡の食のオアシスだ! と思いました(笑)。お豆腐ひとつにしたって本当においしいんですよ。東京から来た友人たちを連れていくとみんなよろこんでくれます」

パッケージに縁起物がデザインされた〈高岡ラムネ〉
美しいパッケージデザインが目を引く〈高岡ラムネ〉。しょうが、柚、梅、いちご、りんごといった5つの味があり、「貝尽くし」や「宝尽くし」など縁起物のモチーフもさまざま(540円〜)。

富山県高岡市は、400年続く歴史あるものづくりのまち。銅器や漆器、鋳物、彫金など、国内でも有数の工芸都市として知られています。

近年、〈大野屋〉がある山町筋という通りには、コーヒーショップやパン屋、ギャラリー兼セレクトショップなど、お店を営む人たちが少しずつ増えてきました。そのほか「高岡クラフト市場街」という地域のイベントもあり、5年前には大野屋も参加。創業180周年を記念して、10人の作家とのコラボレーション企画『とこなつの器展』を開催し、老舗でありながらも柔軟な動きで、まちに新しい風を吹かせています。

店内に展示されている古い木型
店内には、落雁や金華糖といった砂糖菓子をつくるための古い木型が展示されている。木型をつくる職人は、需要の変化とともに減少傾向にあるという。

「高岡の移住やUターンの方は同世代の方も多く、私が戻ってきたタイミングとも重なっていたので、みなさんの存在に励まされましたし、心強かったですね。それとやはり小さいまちなので、お互いの顔が見えるっていう安心感はあります。あとは、まちを盛り上げている若い人たちの力も大きい。そこからいろいろな刺激をもらうことで、高岡の未来や新しいかたちが見えてくるようなおもしろさがありますね」

インタビュー中の大野悠さん
居酒屋に行くのも好きで、お酒好きでもある悠さん。好きな日本酒の銘柄は、地元高岡〈清都酒造場〉の「勝駒」。

歴史と伝統を次の時代につなげていくためには、柔軟な発想を持って挑戦することが必要不可欠。それは、明治時代からつくり続けている〈大野屋〉の「とこなつ」が証明してくれているようでもあります。

「昔は大胆な和菓子が多いなかで、あれだけ繊細な素材使いと控えめな大きさの和菓子っていうのは珍しいですし、当時は大きな挑戦だったと思います。〈高岡ラムネ〉も私たちにとっては挑戦でしたし、そういう意味では伝統を守るだけでなく、いろいろなことに挑戦していきたいと思っています。私たちのつくる和菓子でみなさんに笑顔になってもらえることが一番の望み。大切なことはシンプルだと思うんですよね」

〈大野屋〉の正面入口
重厚感のある佇まいはまちの風景の一部にもなっている。かつては大野屋も土蔵造りの建物だったそう。
Information
大野屋 高岡木舟町本店
address:富山県高岡市木舟町12番地
tel:0766-25-0215
access:高岡軌道線「片原町」より徒歩3分
営業時間:8:30~19:00
定休日:水曜(祭日を除く)
Web:大野屋
※「高岡ラムネ」は、東京の〈日本橋とやま館〉でも販売しています。

credit text:井上春香 photo:日野敦友

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