「老舗」にとらわれすぎず、のびのびと
東京から戻り家業に専念するようになってからは、生まれ育った地元と自然に向き合えるようになったという悠さん。それまで意識していなかったことや当たり前のように感じていたことが、高岡ならではの良さであり魅力であると再確認する場面もありました。日常の暮らしのなかでは、こんなことも。
「スーパーのお刺身のクオリティがものすごく高くて、おいしいんです。こだわりの調味料や食材が豊富に揃う〈フレッシュ佐武〉というご当地スーパーは、高岡の食のオアシスだ! と思いました(笑)。お豆腐ひとつにしたって本当においしいんですよ。東京から来た友人たちを連れていくとみんなよろこんでくれます」
富山県高岡市は、400年続く歴史あるものづくりのまち。銅器や漆器、鋳物、彫金など、国内でも有数の工芸都市として知られています。
近年、〈大野屋〉がある山町筋という通りには、コーヒーショップやパン屋、ギャラリー兼セレクトショップなど、お店を営む人たちが少しずつ増えてきました。そのほか「高岡クラフト市場街」という地域のイベントもあり、5年前には大野屋も参加。創業180周年を記念して、10人の作家とのコラボレーション企画『とこなつの器展』を開催し、老舗でありながらも柔軟な動きで、まちに新しい風を吹かせています。
「高岡の移住やUターンの方は同世代の方も多く、私が戻ってきたタイミングとも重なっていたので、みなさんの存在に励まされましたし、心強かったですね。それとやはり小さいまちなので、お互いの顔が見えるっていう安心感はあります。あとは、まちを盛り上げている若い人たちの力も大きい。そこからいろいろな刺激をもらうことで、高岡の未来や新しいかたちが見えてくるようなおもしろさがありますね」
歴史と伝統を次の時代につなげていくためには、柔軟な発想を持って挑戦することが必要不可欠。それは、明治時代からつくり続けている〈大野屋〉の「とこなつ」が証明してくれているようでもあります。
「昔は大胆な和菓子が多いなかで、あれだけ繊細な素材使いと控えめな大きさの和菓子っていうのは珍しいですし、当時は大きな挑戦だったと思います。〈高岡ラムネ〉も私たちにとっては挑戦でしたし、そういう意味では伝統を守るだけでなく、いろいろなことに挑戦していきたいと思っています。私たちのつくる和菓子でみなさんに笑顔になってもらえることが一番の望み。大切なことはシンプルだと思うんですよね」
credit text:井上春香 photo:日野敦友