山のイラスト
錫製のスプラウトプランターの製作工程
craft

〈能作〉の情熱が「循環」を生む。
世界でも類を見ない錫100%のものづくり | Page 2

series|リメイド・イン・トヤマ

錫100%だから可能な
「錫リサイクルプロジェクト」

この錫100%のものづくりへの挑戦は、誰もが見たことのない斬新な製品の誕生だけに帰結しません。錫には「柔らかい」ほかに、もうひとつ大きな特徴がありました。それは「融点の低さ」です。

「真鍮の融点は800〜1000度ほどですが、錫は約230度とかなり低く、溶かしやすい素材です。つまり失敗した製品や余った金属片を再度溶かして、材料として再利用することができたんです。そのため真鍮よりもエネルギー量は少なくて済み、さらに錫100%で鋳造しているためリサイクルも容易。能作の錫製品は何度でも再利用が可能で、とてもエコだったんです」

鍋で錫を溶かしている

これは意図していたものではなかったと千春さんは語ります。しかし、伝統工芸の世界でゼロから技術を磨き、誰もやったことのなかった錫100%の製品に挑戦した先代のものづくりへの情熱が、結果的に企業の社会・環境に対する責任が大きく問われる現代で大きな意味を持つことになっているのは、企業のあり方として理想的なのではないでしょうか。

工場内に吊り下げられた「錫」の漢字のオブジェ
工場内の錫製品をつくるエリアに吊るされた「錫」の文字。

環境に配慮した持続可能なビジネスというのは現代の企業に求められる基本姿勢です。千春さんは、企業活動をするなかでSDGsへの取り組みを明確にする必要性を感じ、今の時代に求められるものづくり企業としてのあり方をどれだけ能作が達成できているか、社内で整理し明文化することに取り組みました。

その際に、あるスタッフからの言葉がきっかけとなり、能作の錫製品の可能性がまたひとつ広がることになりました。

「本当に何気ない会話からでした。弊社はスタッフとの日常会話からプロジェクトが生まれることが多いのですが、『家で使われずに眠っている錫製品を回収して、それを再利用して何かできないですかね?』という提案がスタッフからポッと出てきたんです。製品の回収プロジェクトはアパレル業界ではすでに行われていることでしたし、店舗のスタッフにもヒアリングしながら実現可能性を探り始めました」

しかし本来であれば能作の錫製品は、長く使っていただくことで味わいと愛着が増すもの。千春さんは回収することに抵抗もあったそうですが、次の製品の購入を考えている方や役目を終えた錫製品の処分に困っている方のためになればと考え『錫リサイクルプロジェクト』が発足しました。

「錫リサイクルプロジェクト」は、能作の錫100%製品を店舗やオンラインショップ経由で回収、それを原材料として「スプラウトプランター」に生まれ変わらせるという能作ならではの持続可能なものづくりプロジェクトです。プロジェクトに参加した人は、回収した錫製品の重量に応じて買い物に利用できるポイントやお買い物券がもらえます。

「正直なところ、プロジェクトを開始するまでは良いのか悪いのか複雑な気持ちもありました。でもこういう機会を探していたとおっしゃってくれるお客様はやはり一定数いました。このような回収事業をしていることを知らない方もまだまだ多くいるなと実感しているので、これからはもっとこのプロジェクトを浸透させていきたいです」

スプラウトプランターの鋳型をつくる過程
少量の水分と粘土を混ぜた鋳物砂を木型の周りに押し固めて鋳型をつくる、生型鋳造法(なまがたちゅうぞうほう)でスプラウトプランターをつくる。押し固めた砂から木型を抜くことで鋳型ができる。
溶かした錫を鋳型に流し込む
上型をかぶせ、溶かした錫を鋳型に流し込む。
鋳型を取り外したスプラウトプランター
取り出した鋳物。不要部分はカットし、仕上げ工程に回す。
グラインダーで表面を研磨中
やすりで表面をきれいに仕上げる。
手のひらにおさまるサイズの錫製スプラウトプランター
錫リサイクルプロジェクトで回収した錫製品から誕生したスプラウトプランター(サンプル)。左・猫、右・街並(3850円)
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