山のイラスト
使用済みペットボトルからつくられた能作のショッピングバッグ
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〈能作〉の情熱が「循環」を生む。
世界でも類を見ない錫100%のものづくり | Page 3

series|リメイド・イン・トヤマ

受け継がれていく能作の精神

「錫リサイクルプロジェクト」以外にも、近年の能作はさまざまな新事業を展開してきました。それはどれも千春さんが中心となって生まれたものです。

もともとアパレル通販誌の編集者として地元を離れ働いていた千春さん。2011年に家業に戻り、それからは受注や生産管理、棚卸しなど、拡大期を迎えていた能作の社内体制を整える仕事に奮闘したそうです。そして2017年の本社工場の移転を機に「産業観光部門」の部長に任命されました。今では年間13万人もの観光客が訪れるようになった新社屋の設計や10回目の結婚記念日を祝う「錫婚式」に絡めたブライダル事業、観光ツアーの企画運営といった新事業を千春さんが先頭に立って推し進めていきました。

各社員おすすめ観光情報のチラシがロビーの専用ラックに掲げられている
能作のロビーに設けられた、社員によるおすすめの観光情報が並べられたコーナー。
能作の製品のシルエットがプリントされたショッピングバッグ
使用済みペットボトルからつくられた能作のショッピングバッグ。

こうした鋳物業の枠を超えた挑戦に挑む千春さんの姿勢は、かつて自社製品の開発や錫100%のものづくりに挑んだ父・克治さんの姿と重なります。

「なんでもチャレンジしてみるのが能作の精神なんです。父からは『やりたいことがあるのに、やらなかったらそれは失敗。まずやってみろ』といつも言われてきました。『一生のうちにどれだけの人間を幸せにできるかで、お前の一生の価値が決まるんだ』という言葉も心に残っています。もちろん本業である能作のものづくりの伝統は継承していかなければならない部分ですけど、ブライダルでも観光でも飲食でも、我々のものづくりがあるからこそできることでより広く幸せを届けられたら、こんなに企業としてうれしいことはないですよね」

インタビュー中の能作千春さん

千春さんの夫も克治さんと同じく、異業種から能作に入社しゼロから職人としてのキャリアを積み、現在は能作の工場長を務めています。旦那さんのサポートがあるからこそ、社長の役目をこなせていると千春さんは語ります。

「人と、地域と、能作」をスローガンに掲げている能作。人のために、地域のためにさまざまなことに携わっていくのは能作の企業精神としてずっと受け継がれてきた、変わらない部分です。

「障害のある方のアート展を開催したり、人気キャラクターとのコラボアイテムをつくって販売もしています。ほかにも伝統産業に対する子どもたちの理解を深めるため、職場体験や学習旅行も積極的に受け入れています。ものづくりの領域を超えて、地域や人のために行動することはこれからも続けていきたいです。2024年には能作のファンに喜んでいただけるようなファンイベントの開催を考えているんです。こうしてつくり手とお客様とのつながりを強くしていくことで、能作のものづくりで挑戦できることの幅がより広がっていくと考えています」

幅を広げることで、結果的に「錫リサイクルプロジェクト」のような「ものづくりの循環」が生まれます。ほかにもまだまだチャレンジを続けていくつもりだと語る千春さんの目は情熱に満ちていました。

Information
能作
address:富山県高岡市オフィスパーク8-1
tel:0766-63-0001
営業時間:10:00〜18:00(カフェは17:30L.O.)
定休日:年末年始(工場見学は日曜・祝祭日休業。土曜は不定休)
Web:能作 公式サイト
オンラインショップ:能作 公式オンラインショップ

credit text:平木理平 photo:朝岡英輔

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