1年を通じて多種多様でおいしい魚が獲れる富山湾。四季折々の旬の魚を食べ逃さないための「富山のすしカレンダー」。毎月3つのすしネタを、すし作家・岡田大介さんの食べ頃ポイントとともにお届けしています。今回は春の訪れを感じる富山湾で今がまさに旬! マダイ、クロダイ、サヨリをご紹介します。
4月のすしネタ①|マダイ
食べ頃ポイント:国内知名度 上位入賞魚
魚の好き、嫌い問わず、タイという名前の魚がいることを知らない人はきっといないのでは? タイの歴史を紐解けば、たくさんの文献に登場しており、古くから日本で人気だったことを伺い知れます。縁起の良い色を紅白とし、桜が好きな日本人。マダイの色がうつくしい色をしているところも、長く人気が続く理由なのではないでしょうか。
マダイの人気はもちろん見た目だけではありません。ここ富山湾でマダイがおいしくなる季節は春。産卵前の栄養を蓄えたメス、その時期に合わせるかのようにしてたくましく大きくなるオスが漁獲できるのが春なのです。酢飯と一緒に食べるだけでツッコミどころのないバランスのとれた一品になる、お手本のようなすしダネです。
しかし、ここに複雑なメッセージが込められているのがわかりますか? 産卵前の魚はおいしいので食べたいと思うのか、資源保護を考えれば、多少おいしくなくても産卵後のタイを食べるべきだ! と考えるのか。
私たち人間が食べる魚の量と、大きな海で繰り広げられる生命の転生の規模は、現代の技術では明確に計測することは難しく、正確な数値がわからないため、不漁や豊漁の原因を追求するのは困難ですが、多角的な見方で魚と海にまつわる環境を意識して過ごすことが大切なのかもしれません。
4月のすしネタ②|クロダイ
食べ頃ポイント:マダイの黒幕!? 人々を魅了し続ける奥深さ
華やかな彩りのマダイを引き立てるかのように、黒を基調とした渋い外見のクロダイ。しかし、マダイと比較すること自体がナンセンス。
実は釣りの世界では、マダイ釣りの人気に引けを取らないほど、昔からクロダイを専門に釣る方も多く、釣り人を魅了し続ける奥深さを持つクロダイですが、すしダネとして見かける頻度はあまりないかもしれません。
沖を回遊するマダイに対して、クロダイは沿岸の磯付近に棲息していることが多く、漁船で多く漁獲されるマダイと比べると市場に出回る量が圧倒的に少ないのです。
富山湾の春のクロダイは、雪解け水が恵みとなり、エサの豊富な沿岸部で栄養を蓄え、旨みののった魚体へと成長していきます。クロダイは味に個体差がある魚と言われるとおり、どのようなエサをどのくらい食べたかが、おいしさを大きく左右します。
クロダイのすしについては、すし職人にお任せください。個性的なクロダイの旨みをしっかりと引き出して、絶妙な一貫を握ってくれることでしょう。お店でクロダイを見かけたら、ぜひ注文してみてくださいね!
4月のすしネタ③|サヨリ
食べ頃ポイント:細い見た目からは想像できない、存在感
富山湾の春といえば、サヨリを忘れてはいけません。漢字で書くと「細魚」と表現されるように、シュッと細長い体、そして特徴的なのが尖った下顎。その先端は口紅を塗ったように朱色が美しく、青、銀、白、透明が混じる魚体の中でもひときわ目をひきます。
春、立山連峰からの雪解け水が数々の川を通じて富山湾に注ぎ込み、植物プランクトンという名の山からの恵みが、海で待つ動物プランクトンたちのエサとなり、そこから豊富な生きものたちの食物連鎖が始まります。プランクトン類を捕食して育つサヨリは、受け口に進化することでエサを取り込みやすくしているのです。
サヨリはさっぱりとしたイメージをもたれがちですが、脂もしっかりとのるタイプの魚で、下処理をする際、お腹を開いて内臓を見ればその有無が顕著にわかります。
脂の少ないサヨリを使った白身魚とも思えるような爽やかなすしは塩で、脂がたっぷりの光り物としての旨味をまとった濃厚なサヨリは、生姜とネギの薬味でバランスをとることで、あの細い見た目からは想像もできない素材の旨みを堪能することができます。
1979年生まれ。すし職人歴26年。東京都文京区にてすし屋「酢飯屋(すめしや)」を経営する。現在は海、魚、すし、海藻にまつわる様々な情報を伝える「すし作家」として活動中。ディープなブログとSNSで発信し続け、料理人の新しい働き方を、体を張って日々探し続ける。著書に写真絵本『おすしやさんにいらっしゃい!生きものが食べものになるまで』(岩崎書店)など。Web|酢飯屋 Instagram|@okadadaisuke_sumeshiya
credit text:岡田大介 edit:花沢亜衣
参考文献:『すし本 海から上がって酢飯にのるまで』(大和書房)